無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

Keep you "Tryin'"

Parodyとよく似た歌詞構造をもつ歌にKeep Tryin'がある。まず歌は独白調、いやそこまでいかないか、独り言調から始まる。("白"には白状、告白等という風に"伝える"意味がやや強い) そのサビから始まりつつ、まず最初のメロで『一人が少しイヤになる』と告げる。同じ一人でも、エレベーターに誰も居なくて安心するParodyとは対照的だ。そして2番では『ホントは誰よりハングリー』と他者と比較する表現が出てくる。これも、優越感やら劣等感やらというより、自分の感覚を共有する他者を実感できない事からくる孤独感の一種ともとれる。1番〜2番にかけては、斯様に自分のもどかしい気持ちを歌い続ける。他者は居るのだが、自分自身と乖離している感覚。Parodyと同じ構造であるが、それをどう捉えているかで最後の展開が違ってくる。

2番のサビ後半で、まず少し風向きが変わる。『実をいうと戦っていた/大切な命/とっても気にしぃなあなたは少し休みなさい』と"あなた"が出てくる。これも、曲の中で初登場する位置がParodyとほぼ同じであり、唄い手が自身に言い聞かせているようでもあり聞き手に訴えかけているようであり、どちらとも解釈できる。この不安定な感覚を逆手にとって伏線とするところが巧みなのだ。

ここから様相が変わる。展開部で『どんな時でも価値が変わらないのはただあなた』と、今度は明確にこちらに歌いかけてくるのだ。前段の伏線の"あなた"の曖昧さがいい準備段階として機能しているから、ここでの"呼び掛け"の突飛さを減じ、必然性を高めている。

ここから第2展開部で"あなた"を展開しに掛かる。少年、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、車掌さん、お嫁さん―抽象的な"あなた"が具体的に名指しされていくが、唄い手にとっての"あなた"である事が明確な為ここで得られる感情はただひたすら愛である。人に対する愛である。最後の局面で孤独対孤独の主体である所の"君"に感情を収束させるParodyとは全く反対といっていい。ヒカルはこの曲Keep Tryin'は既存の応援歌のParodyだと言っていたがとんでもない、これこそ自身を鼓舞する事が最も他者を応援する事に繋がるとわかっている人によるTrue Story,真の人生の応援歌なのである。