無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

共に在る時間を味わい尽くそうよという話


これだけ『SCIENCE FICTION』の数々のニュー・バージョン(リレコーディング/リミックス/リマスター)を聴いていると畢竟「前のバージョンとどちらが好きか」という話題が、どの曲についても出てくるのだろうな。


私はといえば、前もトラべの時に書いた通り、その日の気分で聴き分けているだけなので、余りどちらが好きかという疑問を持っていない─というかそういう問いの立て方を自分からはしようとしていない、と言うべきか。とにかく、選択肢がまた増えて嬉しいというのが感情の大半を占めている。


そうさね…例えばあたしは「チキンラーメンサッポロ一番みそラーメンのどっちが好きか?」と訊かれたら「チキンラーメン」と即答するのだけど、だからと言ってチキンラーメンばかり食べてるわけではない。日によってはサッポロ一番みそラーメンも食べる。どころか、頻度としてはサッポロ一番の方が多いくらいだ。どんな野菜を載せるかのバリエーションがこちらの方が大きいからね。チキンラーメンは卵ポケットに不義理を働くわけにはいかないからキムチを載せるか載せないかくらいしかバリエーションがないのよね。なので、比較してより好きな方の頻度が多いとかそういうことでもないし、そもそも訊かれたらそう答えるというだけで、チキンラーメン食べてる時は「チキンラーメン美味ぇ」としか考えてないのよ。サッポロ一番の事は頭に無いのね。勿論サッポロ一番食べてる時は「サッポロ一番美味ぇ」と思っててチキンラーメンの事は思い出さない。目の前のご馳走を美味しくうただくことに集中していて、他のメニューと比較なんてしないのですわ。なので、オリジナルの『traveling』を聴いてる時はオリジナルの『traveling』の事を感じているし考えてるし、『traveling (Re-Recording)』を聴いてる時は『traveling (Re-Recording)』の事を感じてるし考えてる。至ってシンプル。


とはいえ、こんなブログをやってるもんだからしばしば2つのバージョンを聴き比べて執筆する事なんかもある。あるにはあるんだけど、やってみたら単なる作業になってつまんない、ってなったりする事も。普通に聴いて浸ってる方がずっと好きなのねこの人は。


ここらへん、音楽に対するアプローチの違いってやつかもね。あたしの音楽への接し方は……随分大昔にも書いた気がするけれど「食事型」に近い。出来るだけ栄養バランスを摂れるようあれもこれも食べるし食べてみる、そういうタイプだ。日々気分は移ろうから、それぞれの気分によりよく寄り添える音楽の幅広さと肌理細やかさが欲しい。


一方で、もしかしたら(想像上の)J-Popリスナーってのは、そんな私に較べてやや「恋愛型」に傾いてるんだろうかな。どっちの方が好きかをよりハッキリさせて、浮気なんて許さない、と。結構よくみるもんね、「最近他のアーティストに浮気してましたが、このたび宇多田ヒカルに戻って参りました。」とかってコメントが。私から言わせれば、歌を聞くのに浮気も何もあるかいな、ラーメン屋行った次の日は牛丼屋行くよ、次の次の日はステーキ屋だよ、寧ろ1週間ずっとラーメン屋通う方が異常事態ではなくて?というのが、食事型の人間からすりゃ本音なのです、ハイ。


まー確かに、属人的な価値観で接するとなるとそうなるのよね。歌や音楽ってより、それを歌ってる人や作ってる人に忠誠を捧げるというか操を立てるというか。歌や音楽に対して「人」をメインに考えるなら、確かに恋愛型な接し方になるよなぁ。


勿論あたしも宇多田ヒカルを特別視してるし、この日記の更新頻度と期間の長さを盾にすれば「浮気しなさ」を強調する事も出来なくはないのだろうけど、実際は全くそんなことはなく。寧ろ宇多田ヒカルを特別視してるのは人としてであって、作る音楽はそこから切り離して接してるまであるわ。OLKMVを観て毎度七転八倒してるのはヒカルが人として魅力的だからであって、楽曲としての『One Last Kiss』や映像作品としての評価は全然別のとこにある。


ここらへん、例えばカバーへのテンションの違いなんてとこにも現れるのかもね。2013年に『宇多田ヒカルのうた』アルバムが出た時に、普段同じようにヒカルを応援してるリスナーの間でも人によってえらい受け止め方に違いが現れててね。興味深かったですわ。


て感じなので、今日ラーメン屋明日牛丼屋明後日ステーキ屋に晩ご飯を食べに行くのと同じように私は、今日はオリジナルの『traveling』を聴き、明日は『traveling (Re-Recording)』を聴き、明後日は『traveling (Bahiatronic Mix)』を聴いて、それぞれの日を楽しく過ごすのでしたとさ。そのローテーションに、『SCIENCE FICTION』は一挙に26トラックの新顔を招いてくれたのだ。なかなかに最高ッス、ヒカルパイセン!




ちょいとくどめに言い直してみると、音楽を聴く営みはスポーツでもなければ恋愛工学でもないのだから、優劣を決めなきゃいけないわけでもないし、好き嫌いをハッキリさせる必要があるわけでもない。ただその歌と共に在る時間を味わい尽くす事、それが一番大事であってね。あたしなんかはBURRN!読んで育ってきた人間なんで、年間アルバムベスト10を選出したり点数つけて悦に入ったりもするけれど、それはあクマで音楽を聴くことの“余興”みたいなものであって、メインの興味にはなり得ない。実際、「今年は10位と11位の出来が拮抗してるから2枚を聴き比べてなんとか順位をつけてみよう」とか思って過ごす2時間は、大抵凄くつまらない。夢中になった時間に対して、冷静になった時にどうだったかを振り返って決めないとね。で、夢中になれた2時間を過ごした後はもう順位なんてどうでもいいよね。「今年はこんなにいいアルバムが出たんだな、嬉しいな、楽しかったな」と思える方が余興の体裁を整えるよりずっといい。なので、あなたがどっちが好きかを較べるのが楽しめないのだとしたら、それはそれで健全なんじゃない?