無意識日記々

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polish

Wait & See〜リスク〜を最初聴いたとき、Dream Theaterの1994年の名作「AWAKE」の事を思い出した事を思い出す。

当時彼らは1992年の2ndアルバム「Images And Words」が大ブレイクし、取り巻く環境が激変していた。その慌ただしさの中で作り出された「AWAKE」は、質の高さは折り紙付きだったもののどこかアレンジの詰めが甘く、ほんの僅かではあるが散漫な印象を与えた。

確かベーシストのジョン・マイアングだったと思うが、後年「AWAKE」を振り返った時に「polishが足りなかった」と語っていたのが記憶に残っている。ポーランド人(Polish)ではなく、磨き込み(polish)が足りなかった、と。

僕らの音楽2でヒカルは、この時はBe My Lastを歌ったのだが、ひとつのアイデアを極限まで磨き込む事について語っていた。EXODUSという作品が、恐らくそれまでのアルバムの中で最も締め切りに縛られない、或いは締め切りがあっても遥か遠方であった制作だった事を考えると、このとき磨き込みの味をしめたとも考えられる。

W&Sの頃は、次から次へと押し寄せてくる締め切りと闘っていた感がある。この後発表されたFor You/タイム・リミットもツアー前のスーベニール的な位置付けでどさくさに紛れてリリースされた雰囲気だった。

大ブレイクによって環境が激変し、周りの状況に左右されながら作る楽曲に磨き込みが足りなかった、しかしそれでも質の高い作品を提示し期待を裏切らない売上を達成した。そういう、「なにがなんだかわからない期間」というのは、恐らくもうこの時一度きりであろう。

今後光が世界のどこかでブレイクしても、それは既に一度きた道、磨き込む時間がないならばないなりに作品をまとめる術はもう心得ている筈だ。

そう考えると、恐らく(もし私と同じ感想をもっているならば)当人たちは磨き込みが足りなかった事に悔いが残っているかもしれないが、そういった作品たちは大ブレイクのドキュメントとしてとても価値のあるものだという事も出来る。踏み込んでいえば、ブレイクを経験した者でないと封じ込められないニュアンスが作品に生々しく息づいているという具合である。

光はW&Sのカップリング曲、Fly Me To The Moonをリミックスするにあたり7年前の自分の歌唱を聞いて赤面したらしいが、そういういたらなさを記録できている事は何より貴重なのだ。人の成長の物語もまた、素敵な作品のひとつなのだから。きっとまた7年後とか10年後とかに光がWild Lifeの歌唱を聴いたら赤面するのだろう。また、そうでなくてはいけないのである。