無意識日記々

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その音に相応しい音量

サントラで桜流しだけ音量が小さいのではないか、という問題は、恐らく想像以上に重大である。殆どの人は、1枚のCDをかけている途中でVolumeを変えたりはしない。絢爛な鷺巣サウンドの後に地味〜に桜流しが始まったりする構成だと、「陰湿で根暗な歌だなぁ」とかいう感想になりかねない。怖い怖い。

特に日本人は、伝統的に音量を軽視してきた。単純に、家が狭くて密集しているから大きな音で音楽を聴く習慣がないのである。ロックが日本で弱いのは、ビッグなサウンドへの理解が足りないからだ。大きな音量に耐え得るサウンドを創るのにも様々なノウハウが必要だ。というのも、原理的に、音を電気信号に変えて伝送し増幅した場合、必ず波形が(即ち音色)が乱れるからだ。大きな音を出そうとすればするほど、歪みに強い原音を用意しないといけない。

そして、そういった原音は、小さな音量で聴けばショボい事この上ないのである。大きな音を出して初めて、その骨太さが伝わってくる。四畳半フォークが心の風景になっている日本人には無縁の世界だ。

音を大きくしようとすればするほど原音を工夫しなければならない、というのは、例えばプリンを頭に浮かべればわかりやすいか。あの、高さが数センチメートルくらいのプリンと全く同じ材料でバケツ大のプリンを作ろうとしても、自重でひしゃげてグチャグチャになってしまう。大きくするには強度が足りないのである。実は音も同じようなもので、小さい音量で再生している分には、ゆるゆるふわふわして耳当たりのよい音でも音量を上げていくにつれ耳障りな、何が何だかよくわからないグチャグチャした音になっていく。踏み込んでいえば、ある音色にはその音色なりの、その音が活きる最適の音量というものがあるのである。


桜流しサウンドプロダクションを司る時、最も留意すべきなのは「映画館でどう響くか」であった筈だ。つまり、家庭で聴くのとは較べものにならない大音量を想定してミックスダウンを施さねばならない。果たして、少なくとも私の耳には、映画館で聴く桜流しは家で聴く、或いはイヤフォンで聴くそれよりずっと"相応しく"響いていたように思う。配信音源では不明瞭に、野暮ったく響いていたあのドラムサウンドも、流石に2chステレオなので劇場いっぱいに広がる、という事はなかったが、かなり説得力のある音質として鳴っていたように思う。

さてさて、ではサントラに収録する場合、どこまでサウンドを調整してこれるのか。初回版特典という位置付け上、そこまで手間暇予算は掛けられないだろうなと推測される一方で、いやEVAなんだから、特にQではピアノの連弾場面もあるなど音楽は非常に重要な役割を果たしている(そういえばその連弾シーンの楽曲はサントラに収録されるのかな?)のだからめっちゃ気合い入れてCD用にマスタリングしてくるだろう、という見立ても成り立つ。

ただ、桜流しはその中でも特異な筈だ。レコーディングは勿論、ミックスもマスタリングも他の楽曲達とは別作業だった筈。そもそも、本来ならEMI JAPANから出るべき音源が他社から出るというのだから外様もいい所である。この、"緊急リリース"に近い状況(もうあと2ヶ月しかない!)で、外様と連携を取り合って付録のサントラのサウンドについて吟味する…現実的ではない。もっと早い段階で、出来れば昨年のうちにそういった摺り合わせは終えられていると信じたい。


いずれにせよ桜流し初CD化である。皆がこの曲を見直し聴き直し惚れ直すような結果になるよう、願って止まない。雪は止んだよ。(関東の南の方では)