無意識日記々

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LuvLive03 In My Room

さて次はLuv Liveの3曲目、ヒカルが1stアルバムでいちばん好きと語るIn My Roomである。

この曲は、前曲のtime will tellとは対照的に、基本的にスタジオバージョンと同じ歌い方である。従って、ライブならではの特徴を見ていくにはややマニアックに掘り下げてみないとダメだろう。

イントロからアドリブのハミングが入るが、前述のようにここでのヒカルはスタジオバージョンのIn My Roomに準じたニュアンスでメロディーをとっている。前曲ほど過剰にエネルギーを発散したりしていない。その代わり、彼女の動きをよく見てみよう―こういう注釈を挟めるのも、今回こうやって映像作品としてリリースしてくれたからだ、ありがたい―、縦に深く掘り下げるグルーヴを感じながら動いている事がわかるだろう。イントロから最初のヴァースまではかなり探り探りで、ぎこちなくすらあるのだが、『そんなことはどうでもいい』の直後にバンドの演奏に一瞬ブレイクが入る。ライブならではのアレンジだが、この後ほんの少しの間を置いてヴィニーのスネア(あの熊淡第3回で特集されていたヤツだ)が一閃してヒカルが「フェイクネイル〜」と歌い出すと途端にバンドと歌のグルーヴがバッチリ同期を始める。いやはや、演奏者も歌手も一流のプロ集団なんだなと痛感させるシーンである。

どうしてもヴィニー絡みの話が多くなってしまう。伝説的な名手という事もあるが、きっと、他のプレイヤー達も彼の演奏が身近で見られるとなれば興奮している筈なのだ。勿論ドラマーというポジションの性格上、他のプレイヤーは彼のリズムに合わせて演奏する訳だがそれ以上に熱心に耳を傾けているように思われる。

例えば、『でも私にはもう何も聞こえない』の『私には』の"は"をヒカルはスタジオバージョンより強いアクセントで歌っているのだが、ここに寸分違わぬタイミングでヴィニーがクローズドシンバルを一発キメてくる。どこまで打ち合わせされているのかわからないけれど、こういったプレイを積み重ねる事で歌を含めたバンド全体のグルーヴが深まっていくのだ。「仲」みたいなもんである。

そしてやっぱりこの曲でも聴き所はアウトロのアドリブだ。早くもヴィニーは新しい手数をこの場面で加えていく。ヒカルはといえば、スタジオバージョンでは歌っていなかった『Baby won't you come to my room〜♪』からの一連のフレーズを歌ってくれるのだが、このLuv Liveのバージョンではやけにハキハキとスタッカート気味に歌っている。これもまたヴィニーの深めのヒットのドラミングに呼応した歌い方になっている。

もうひとつ、アウトロではヒカルがピアノの3連符下降フレーズを受け継いでフェイクをかまそうという場面がある。ピアノによる3連符は楽曲全体の中で幾らか伏線を張ってあって、それがここにきて主役に躍り出る、という構図になっている。ここでその流れに乗ってヒカルもついていこうとするのだが、メロディーを半分位歌った所で収束させてしまう。早い話が"あんまり決まらなかった"場面なのだが、私はここを逆に"センスがあるなぁ"と思ってしまった。

つまり、彼女は「あ、こっちはないな」という判断の許にすぐさま撤退する事を厭わなかったのだ。アドリブをちゃんと聴かせるにあたって、即興の中で「こっちはナシ」と感じとったラインを"深追いしない"のは鉄則なのだが、それを16歳の女の子がデビューライブで徹底して、実行出来ているのだ。いつものようにヒカルには余り歓迎されないだろうし私も言うのは好きじゃないのだが、どうしたって「天性の歌唱力を持って生まれてきたんだなぁ」と呟かざるを得ない。やっぱ凄いわ。