無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

LuvLive04 Never Let Go

4曲目はNever Let Go. 相変わらずイントロの小粋なシンバルワークに痺れるが、ドラムの話ばっかりしていても仕方ないので今回は歌の話中心で。

元々、演奏陣には退屈な曲だ。ギターはSTINGによる主題を延々と爪弾き続け、ベースはひたすら無表情に無慈悲に、そして無感覚にルート音を弾き出してゆくねみだ。スタジオバージョンでは、聴き手を不安な気持ちにさせるエレクトリックギターによるアルペジオが後半に聴かれるが、このLuv Liveのバージョンではあんまり聞こえない。それがちょびっと残念だ。

が、それでよかったのかもしれない。

ヒカルの歌は、先述の通り基本的にはスタジオバージョンと同じアプローチだ。オーディションのテイクをそのまま採用して991万枚売ってしまった話は心底驚いたが、それだけヒカルが最初っから高いレベルで安定して歌えていたという事だろう。このLuv Liveでも、しっかりとこの曲の持つ陰影を表現している。

注目すべき点はサビだ。『二人で靴脱ぎ捨てて』からのパートである。スタジオバージョンのここのアレンジが秀逸なのは皆さんご存知だろうか。ヒカルは2つのヴォーカルパートを重ねているが、メロディーは全く同じなのに全く溶け合っていない。普通はダブルでヴォーカルを録音する場合、殆ど同じなんだけど僅かに異なる為に生じる唸りや揺れが醸し出す雰囲気を目的とするものだが、ここでのヒカルは全く違う。片方では弱く柔らかく歌い、もう片方では強く硬く歌っているのだ。いわば陰と陽、天使と悪魔、いやさ月と太陽のような対比を描いている。ジキルとハイドでもいいぞ。なんて思ってるとアルバムではボニー&クライドのストーリーが始まるんだけどね。

このうち、Luv Liveでのヒカルは、強く硬い方の歌唱法でこのサビを歌っている。この時のこの選択は面白いな、と思った。

今回のFirst Love 15th豪華盤にはTest Vocal Mixが入っている。所謂マイナス・ワンのインストゥルメンタル/カラオケバージョンなのだが、聴いてみるにあたって注目していた事があった。マイナスワンという事は、もしかしたらバック・コーラスの方は残してあるかもしれない。ではNever Let Goでは、強く硬い方と弱く柔らかい方の、どちらがバック・ヴォーカル扱いなのか。残してある方が"後ろ"扱いである。果たして聴いてみると、どちらのヴォーカルも収録されていなかった。残念。

しかし、まぁ普通に考えれば、両方の歌い分けがちゃんと同等に響いてくるように、強く硬いヴォーカルの方がやや音量が抑えられているのでこっちがバックヴォーカル扱いだと受け取る。

しかし、ヒカルはライブではそっちの方を歌ったのだ。これによってNever Let Goは"ライブ向けの楽曲"に生まれ変わる。ヴァースとサビの歌唱法のコントラストによってメロディーラインにダイナミズムが生まれる。このアプローチを取ったからこそアウトロのアドリブパートをよりエモーショナルに歌い込む事が可能になった。あそこはサビを強く歌い込む事によって出来た流れを受け継いでのものなのだ。そこを意識して聴き直してみると、この曲の"ライブ・バージョンとしての(別の)貌"の特徴がよくわかる筈である。

先程、(主題の方でない)ギターのアルペジオが聞こえてこなくて寧ろよかった、と書いたが、これはつまり、スタジオバージョンでアルペジオと呼応しているのは弱く柔らかい歌唱の方だからだ。この2つが組み合わされる事によって、この曲独特の"聴き手をそわそわぞわぞわと静かに不安にさせる"感覚が生まれるのである。しかし、ライブバージョンではその味を薄くし、より直情的にエモーショナルに歌っている。ここまでスタジオバージョンとライブバージョンで"楽曲そのものの印象"が変わる曲も珍しい。Never Let Go. 15年前の本人も言うように、何とも渋い曲である。


それにしても、『無感覚の中泳いで』と歌いながら平泳ぎしてみたり、『太陽に目がくらんでも』の場面で手をかざしたりするのは、無意識でやってしまっているのだろうか。歌が大人っぽい中でそのアクションだけ妙に歳相応に幼く、なんともかわいらしい感じがして萌えるのだが。