無意識日記々

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対比の中に隠されたレトリック

なんかついでだからThis Is Loveの歌詞についてちょこまか触れとくか。

この歌の歌詞の基本は"対比"である。『冷たい言葉と暖かいキス』『夜と朝』『〜とらえる人〜抱きつく人』『不安と安らぎ』『冷たいまくらと暖かいベッド』―どれも明確な対比になっている。これにより、冒頭の『予期せぬ愛に自由奪われたいね』の愛と自由が対比になっている事がわかるだろう。

しかし、ただこうやって対になる言葉を集めるだけなら普通である。ヒカルの場合、ここに『夢と夢のあいだ』のような変則的なパターンを挿入してくるところが非凡だ。

この『夢と夢のあいだ』というフレーズで何を表現しているかだが、私の解釈ではそれは"昼"だ。ULTRA BLUEアルバムでは前半曲が夜から昼へと遷移する歌詞を持っていた事を想起。(後半は昼から夜だ)。ここではつまり夢=寝ている時間と解釈し、つまり夜と夜のあいだと読み替えるのがいいのではないか。そして、ここで昼は(夢との対比によって)現実を象徴しているから、次の『怯えた目で』というフレーズに繋がる。あわせると、ここでデジカメを覗いている人は、"怖いけれど現実と向き合う人"という風に解釈する事が出来る。

また、"夢と夢のあいだ"という言い方は、当時のヒカルの世界観みたいなものも反映されている。人生の大半は茫漠とした夢のようなもので、そのちょっとした合間々々に昼間の現実が差し挟まれているような、世界の大体は眠りで出来ているような、そんな感覚。生きてる感じがしないとかこの世界にお邪魔しているとか、このあとHEART STATIONアルバムまで連綿と続いていく感覚が、この"夢と夢のあいだ"という一節に集約されているような気がする。多くの人は、眠りとは活動中の休憩みたいなものであって、そちらが合間々々に挟まれるものだが、当時のヒカルは逆だったのだ。(勿論、ここでは睡眠時間と活動時間の長さの比較はあまり意味がない。あクマで感覚の話である)。

その感覚を携えてThis Is Loveの歌詞を読み返してみれば、少しこの風景が親しみやすく感じられるのではないだろうか。次回にまた続くかもしれない。