無意識日記々

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雲の迷宮

なんだかパズルを解いてるみたいだ。全然ほどけてくれないけどなっ。

time will tell』での『雲』は太陽を遮り雨を生む"邪魔な"存在だった。しかし『大空で抱きしめて』での『雲の中』は"夢の叶う"場所だ。かなりニュアンスが違う。

更にこの『夢』も両方の意味で使われている。今言った"叶う夢"と"夜見る夢"だ。歌の最後の『夢の中でしか会えない』の『夢』が"夜見る夢"だとしたら、この歌の主人公は『Beautiful World』のように眠りに就く選択肢を選ぶだろう。しかし実際に続くのは『天翔る星よ消えないで』だ。つまりここでの『夢の中』は「願いの叶う場所」という意味だ。

しかし、そう、一番の歌詞では『夢の中でしか会えないなら』に続くのは『朝まで私を抱きしめて』であり更に『涙で目が覚めた月曜日の朝』と続く。こちらは"夜見る夢"と解釈せざるを得ない、が、既に混ざっている訳ですよ"夜見る夢"と"叶う夢"が。

この歌は、Aメロで日常的に始まってBメロで『雲の中』が出てきた途端に内面の話になる。『大空で抱きしめて』がカップルのスカイダイビングだと解釈した人は居ない。少なくとも私は見かけていない。聴いたほぼ全員が何らかの比喩だと受け止めしかし何の比喩かは説明が難しいのだ。

恐らく、『雲』と『夢』が繋がっているのだ。あからさまに『雲の中』と『夢の中』という同じ使い方をしているのだし。しかしだからといって『雲』=『夢』だと解釈すると無理が出てくる。月曜日の朝に涙で目を覚ます感じはしない。


…この歌の恐ろしいところは、こんな風にウダウダ考えなくても歌の主旨がしっかりリスナーに届く点だ。わかりにくくなるのはより深くわかろうとするからであって、聞こえたままを受け止めるのであれば何も難しい事はない。誤解を恐れずに言えば「歌詞がPop」なのである。手軽で大衆的だ。ミネラルウォーターのCMソングなんていうマスな立場を担っているのだから当然といえば当然なのだが、そこから一歩でも踏み込んだら斯様に迷宮に迷い込む。しかし、幻惑しにかかっているのでもない。最初から言っているように、歌詞の構造自体に感情の表現が投影されているので、認識と解釈のあらゆる階層において「作詞家宇多田ヒカルの意図」が潜んでいるだけでなのである。


…話を戻そう。『雲』と『夢』は同じではないが、相通じる何かを孕んでいる。一方で『雲』は伝統的に宇多田ヒカルの歌詞においては太陽を遮る"悪役"を担い、『夢』はいちばん歌いたい『愛』の対義語としてしばしば登場してきた。『Show Me Love (Not A Dream)』という歌とそのタイトルは一つの到達点であったといえるだろう。"夢じゃなくて愛を見せて"と。


そんな悪役だった『雲』と『夢』が…という話から又次回。1つ1つ解き解してきますよ。