無意識日記々

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とまどいながら でもいいから

更に次である。Movin' on without youの歌詞構成の妙はここに極まる。

『くやしいから 私から別れてあげる』

まずこれである。前回触れた「順接で油断させて突き刺す」パターンの強化型。なんだろうね、これ。この歌の"結論"とでもいうべきセンテンスだ。よくある流れは「くやしいけれどあなたに/お前に夢中」だ。くやしい+逆接からの流れだと夢中なのだからくやしい+順接なら逆に離れていくのも実は当然なのだが…みんな、この歌聴くまでにこのロジックに気付いてた? 俺は気付いていなかった。しかし、これはもう至って順当な事しか語っていないのだ。くやしいなら別れるしかない。くやしいにもかかわらず夢中になるのだからかかわったら離れる。いやはや、言われてみれば当たり前なのに言われるまで気付いていなかった。

ここに至るまでの流れが秀逸なのである。逆接と順接の絡み合いに翻弄されてきているから、もう、なんていうの、"降参状態"で『私から別れてあげる』のフレーズを受け入れるしかないのである。

1番は3時の話で2番は4時の話だ。これを踏まえてみてみると、

3時は『いいオンナ演じるのはまだ早すぎるかな』。ちょっと訊いてる。疑問形である。演じるかどうか一応逡巡しているのだ。

4時になると『いいオンナ演じるのもラクじゃないよね』となる。実際に演じたかどうかは兎も角、演じる方にぐっと傾いた発言だ。勿論、演じる事を決意したとか、或いは演じた後だと解釈してもよい。要は、1時間の間に心境に変化があり、それが対比されて描写されている訳である。

しかし、この1番と2番の対比も更に最後のリフレインで"戻る"。『いいオンナ演じるのはまだ早すぎるかな』にまたなるのである。

ここは、ただのリフレインなんだからと納得するのもありだろう。というか普段そんなに歌詞を聴き込んでいる訳ではないから気にしてないと言ったらいいのかな。いずれにしてもですね、それはそれで考えるべきポイントが、あるのです。


本当に本当のこの曲の要、それはここ。

『とまどいながら でもいいから愛して欲しい』

これですよ。

まず、この文章は叙述トリックである。最初、『とまどいながら』と聴いた時それは"私"だと、リスナーは思ったはずだ。この物語の主人公、たぶん女の子が、とまどうのだろうと一瞬でも思った筈である。違う。仮に、ではあるがとまどうのは男の子(たぶん)の方なのだ。この視点の展開が、この曲では最も極端である。

この叙述トリックは、曲全体の構成によって仕掛けられている。文頭にくる『鳴るの待ってる』『切なくなるはず』『用意した』『分かってる』『返す』『くやしい』『別れる』総て"私"のする事だ。それが刻み込まれているから、『とまどいながら』もてっきり"私"の事だと思うのだ。

しかし、ちゃっかり伏線も忍ばせてある。実は、『見つけて』『構う』などは、彼の用言なのだ。なくはなかったのであるが、そんなにアピールされていない。彼のすることもなくはなかったが殊更アッピールはされていない。ここらへんの微妙な印象の付け方が『とまどいながら でも愛してほしい』のインパクトに結実するのである。ここでも、"でも"と言われた瞬間のぐわっと総てが裏返るような感触が、ただただ素晴らしい。

そして、『別れてあげる』がこの曲の"結論"ならば、本当に言いたかった事、本当の本音は『愛してほしい』なのだ。だからリフレインは戻るのである。一時間前の心情に。この歌は、午前3時と午前4時の間で、本音と結論の間で揺れ動く乙女心を的確に描写しきっているのである。にしたって夜更かしし過ぎだと思うけどねw