無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

prelude to the shadow

そういやキャンシーの『Can you keep a secret ? or このまま secret ?』ってとこ、つまり『誰にもいわないって約束してくれる? それとも秘密のまま?』って言ってるのか。秘密or内緒の中身はまだ話してないのね。

あれ、じゃあこの人の言うsecret/秘密の中身って、結局何だったんだろう…

もしかして、secret/秘密って最初っからなかったんじゃないの、これ。


この歌の主人公は、(おそらく)"君"に対して執拗に迫る。『誰にもいわないで』と言いながら。殆どストーカーの域だけれども、影に怯えているのは主人公の方だ。

勿論、『ここからずっと送ってる暗号』とか『遠回しな表現』といった歌詞から、秘密にしているのは「私が君を好きなこと』だと解釈するのが通常だと思うし、つまりこの人は「誰にもいわない?」という前フリをしながら(粋な)告白をしようと目論んでいる、というのが本来のストーリーだろうが、それは本当に彼女の言いたい事だったのだろうか。

彼女が本当に欲しかったのは、彼に好きだと伝えること、即ち「君の理想に近づくこと」の方ではなく、約束を守ってくれる誰かの方だったんじゃないのかな。だから『信じよう、だめだよ まだ疑えそうだもの』と歌っているのでは。

全体を通して、ここまで“迷いと躊躇い”に満ちた歌詞も、ヒカルの中では珍しい。『近づきたい』『近づけない』『おとなしくなれない』『すぐには変われない』『伝えよう』『やめよう』―兎に角不安定だ。こんな主人公が本当に欲するのは"何か確かなもの"であり、それを満たしてくれるのは約束だったのではないか、とそう解釈してみた。

迷いと躊躇いがいちばん色濃く出ているのが『振り切れなくなる影』である。君の理想を追い求めている筈の主人公が何かに怯えているのだ。これは、愛への確信に満ちた(満ち過ぎた)Prisoner Of Loveの『愛の影を追っている』とは対照的である。何かよくわからないものに怯える気持ちと、感情が行き過ぎてありもしないかもしれないものを追い求める気持ちと。この2曲を比べて聴くのはまた一興だ。曲調的にも「宇多田の王道」と両者目されるのに、歌詞は真逆ともいえるものなのだ。