『Simple And Clean』の方で見てみるか。原詞写すのめんどくさいのでテキトーに和訳しながら。まずは伸びやかで煌びやかでゆったりしたAメロの詞。
「あなたは私に何もかもを与えてくれた
お陰で近頃はあなたなしじゃ何も手につかない
なのにあなたは私に笑ってこう言ったわ』
取り敢えず、「私」と「あなた」で訳してみた。明日訳したらまた違う感じになりそうな位今の気分で訳したんだけど、次は低い音が続くBメロだ。
『“
誤解しないで欲しいんだけどね、ハニー
僕は君の事を愛してるよ、でもさ
だからって、いますぐ君のお父さんに会わなきゃいけないかっていうと、ねぇ?
僕らがもう少し時を過ごせばわかると思うんだ
"いやいや、人生はそんなに単純じゃあないんだよ"って言いたくなる時があるって事を。”』
なんだこれ、訳すの滅茶苦茶難しいな! 一文字間違うとニュアンスがころころころころ変わりよる。明日訳したら以下略。
という訳で、何となくおわかりだろうか。この歌はAメロが、彼にメロメロで日々が希望に満ちた年下女子の声で、Bメロが逸る彼女を宥める年上男子の彼氏の声、という風に構成されている。高くて迷いのない声が年下女子、低くてどっちつかずな声が年上男子。キラキラ盛り上がる彼女と、どきまぎ取り繕う彼氏。そういう歌詞の内容がそのままメロディーの質感に直結しているのである。
これがさ、『光』だとこうなっている。Bメロだけ書き出してみよう。
『今時約束なんて不安にさせるだけかな
願いを口にしたいだけさ
家族にも紹介するよ
きっとうまくいくよ』
そう、内容が全く逆なのだ。メロディーは同じなのに。『Simple And Clean』では「え? お、お父さんに会って欲しい? ぼ、僕らにはまままだ早いんじゃないかなっ?」とうろたえていた彼氏とは本当に対照的だ。これをどう解釈すべきか。
『光』の方では実は男女が逆転していて、Aメロが男子、Bメロが女子となっているとか考えてみたくなるが、上述のように、メロディーがBメロで低いのは歌っているのが男子だからだ。一般的に、男子の方が声が低い。そして、ここのメロディーがどっちつかずで不安げなのは歌詞にそのまま『不安にさせるだけかな』とあるように、家族に会わせたいけどちょっと早過ぎると言われるんじゃないかという彼氏の抱く不安を表現している、と解釈すれば大体OKだろう。
斯様に、ヒカルの歌は人称に対して、メロディーまで巻き込んで凝った構成をとっている。しかし、これは14年前。19歳でガキンチョなヒカルが書いた歌詞だ。33歳の強力なヒカルが書く歌詞は勿論もっと―なのだが、先を急がず、もうちょいちゃんとガキンチョの書いた歌詞を丁寧に見てから今のヒカルの書いた詞に戻る事にしよう。