無意識日記々

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『初恋』の歌詞構成8

『風に吹かれ震える梢が陽の射す方へと伸びていくわ』は風景描写であるとともに比喩である。ここまでの主人公の動きを、そのまま反映しているのだ。

『風に吹かれ』は『言葉一つで傷つくような私』と対応している。一見するとわかりにくいが、『フリをしていた』自分が『あなた』と向き合う事で心が剥き出しになった状態を指しているのだからここで「心を隠し守るものを脱ぎ捨てて風雨に晒される」表現が出てくるのは自然な流れなのである。

『震える梢』が『柄にもなく竦む足が今』と対応している、というのはイメージが得やすいだろう。両方震えてるもんね。同様に『陽の射す方へと伸びていくわ』は『勝手に走り出す足が今』だ。梢が自然に陽に向かうのと同じように『私』は『あなた』へと足を向けるのだ。

なお、ここで植物が出てくる事で我々は『桜流し』や『真夏の通り雨』(の『若葉』)などを想起するが、それは長く聴いている我々に対する嬉しいボーナスのようなものだ。『初恋』を先に聴いた人たちは、のちに『桜流し』や『真夏の通り雨』を聴いた時に『初恋』の『梢』を思い出すだろう。


次の『小さな事で喜び合えば小さな事で傷つきもした』の一節は『初恋』の"歌詞の解釈"において非常に重要な役割を果たす。しかし今は構成の話をしている。その話は後日にしよう。


さぁ、エンディングである。この曲の総てが凝縮される。

『狂おしく高鳴る胸が』―三度び、主人公の物理的身体的状態の描写である。

『優しく肩を打つ雨が今』―主人公の目に入る風景、景色の描写だ。

楽曲の冒頭から描かれてきた主人公の状態と、今しがた描かれた比喩として機能する風景の描写がここで一気に混ざり合う。だからこそ次の『こらえても溢れる涙』の説得力が恐怖を醸す程のレベルに達する。世界は心身景渾然一体となって全力で主人公に『初恋』の存在を知らせるのだ。楽曲の中で様々に撒かれてきた種が総てここで開花し、結実する。劇的という他はない。



…『初恋』の歌詞構成は以上のようになっている。心と身体と景色それぞれを丁寧に描写する事によって描かれる『初恋』は鮮烈かつ荘重極まりない。その重さは、今までみてきたような重層的な歌詞構成に依る所が大である。勿論、そのサウンドストラクチャーも素晴らしいのだが…ひとまずここまでは、構成に主に注視を向けてきた。が、本当に必要なのはその歌詞の"解釈"の方であろう。文章の全体の構成とそれぞれの文の連関は幾らか把握できた。しかし、であっても『小さな事で喜び合えば』や『こらえても溢れる涙』といった文は、一般的に言う「初恋」の範疇に入るエピソードなのかという疑問が浮かぶ。難しい事を言っているが要は釈然としきれないのだ。来週以降はそこらへんの話を出来れば。