無意識日記々

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360RA体験会の率直な感想(ロケニュー風タイトル)

SONYストアで360RAを体験してきた。いや~音の良さって際限がないのかね? スピーカーから流せるサウンドってますますクリアになってるな。メタルテープだCDだHQだBlu-rayハイレゾだと高音質音源に触れる度に「もうこれ以上は無理だろ」と毎回思ってきたのだがそれでも少しずつではあるが音作りって改善されていく。「13.1個のスピーカーによる抜群のサウンド宇多田ヒカルの歌が聴ける」事に少しでも関心があり近場に住んでいるんならまず行ってみて損はないだろう。タダだし、あの様子だと直前でも席あるんじゃないかな? まずは問い合わせてみてほしい。

とまぁそれが第一印象だったのだが、ここから「立体音響」という枠組で物事を考え始めると途端に「課題だらけ」という現実にぶち当たる。まだまだポテンシャルを活かしているとは言い難い、というのが率直な感想だ。第二印象、になるのかな? 裏を返せば、まだまだここからよくなる可能性が満載だということだ。なお良くなるのかスピーカーのサウンド作りって! 未来が楽しみだな。

で。まず、立体音響以前の問題だったのが─前回の『Laughter in the Dark Tour 2018』視聴会(同じくSONYストアでの)でも同様だったのだけれど─、映像と音声の同期がよくない点だ。要は音と口がズレてる。それが立体音響と何の関係があんねんと言われそうだが、音声に空間位置座標が付与されているという事は、音源が動いた場合に音の座標もそれに伴って動くわけでそこがズレると結構目立ちそうなのよ。末端の再生環境に左右されない同期の方法を見出さないといけないんじゃないかコレ。ゲームってそこらへんどうやってんだろね? 全然知らないや。いやでも立体音響は置いておいても口と音がズレてると途端に映像のリアリティが落ちるのでどちらにしろ要改善なのは変わりが無いわな。

そして、差し当たってメインの課題は「リズム隊のミックス」だ。まずはドラムの話から。

シアタールームではスピーカーが前面に9つ(とサブウーファー)、後面に4つ設置してあるのだがそれぞれ部屋の中央までの距離は3~5メートルってとこか。結構近い。視界にすると400人規模の映画館七列目で銀幕を見上げてる感覚かな。…わかりにくい!(笑) 普通に80インチくらいのスクリーンサイズとか言えばいいのか。まぁそれも置くとして。

その見上げる広い視野を目一杯使ってドラムサウンドが視界全体に拡がっているのだ。お前名前を「サンロクマル・リアリティ・オーディオ」と言ったな? なのにリアリティの欠片もないぞお前のドラムサウンド?? 目の前で人間にドラム演奏して貰った事がないのか? まるで5メートル級の巨人(ワンピースの世界では8メートルを超えないと巨人と呼ばないそうですがそれもまたまたさて置いて)が演奏してるみたいだったぞぃ。5mの巨人のドラムをバックに歌う158.9cmの宇多田ヒカル…なかなかにシュールだな!(笑)

或いは、各太鼓を別々の人間が叩いてる様を想像してしまった。ただひたすらひとりで黙々とハイハットでリズムを刻む人や、ドラムロールまで待機しているタム係…うーん、オーケストラのティンパニやトライアングルみたいな感じだろうか。兎に角、「まるで目の前で一人の人がドラムを叩いてるみたいだ!」とはならなかった。もっと人間サイズにおさまってるもんだよ生のドラム音って。

嗚呼、ただ1箇所、こんな風に聞こえる場所があるわ。ドラマー本人の座ってるとこだ。いやぁ、確かに彼女たちならこんな風に聞こえてるかもしれないが私あそこに座った事が無いのでわからない…というかそれって360RAがやりたかった事と違うよね?? あクマで聴衆が聴く「目の前で演奏してるみたいな音」を目指してるんだよね??

恐らくヘッドフォンで聴く事が前提の録音だったのだろう。なるほど視聴会の後にストアのウォークマンで同じ音源を聴いてみたら何ら違和感はなかったわ。それを13.1個のスピーカーで聴いたらあんなことになるのねぇ。

まぁこの課題は各キットの位置情報をイジればいいだけなので早々に改善されるだろう。ただ、ミックスをヘッドフォン用とスピーカー用で分けなきゃいけないとしたら難儀だよね。そこは再生機器との連携で自動的に切り替わるようになって欲しいところ。課題点満載だな。

次に、ベース・サウンドだ。これも自然さとは程遠い。音質自体は抜群に良かったけど。ちょっと音が大きすぎたのかもしれんな。普段は私ベースサウンドはデカければデカいほど大歓迎なので課題として「ベースの音が大き過ぎた」だなんて口にすることはまず無いのだけれど、ここは「立体音響で位置座標を正確に決めて再生する」サウンドを目指している場だ。そういう場所では強過ぎる低音というのは仇となる。

というのも、音って音程が低ければ低いほど「膨らむ」ものなのですよ。低い音ほど定位が曖昧になって音の出所がわかりにくくなる。なので低い音は部屋全体がボーンと響いてる感じになるのだが、ここで360RAが音源の位置情報を持っている為、ベースが高めの音を出すと途端に音の出所が"判明"するのだ。あらそれっていいことじゃない?と一瞬思うとこだが、ひとつの音だけ高いのならそれでもいいけれど、ベースラインというのは往々にして高い音から低い音まで連続的に音程を変える。そういう時、下からせり上がってくる音程は徐々に音の場所が定まっていき、上から下りていく音程は徐々に位置があやふやになっていく。そういうもんだと思って聴けば何の問題もないけれど、あれそれって360RAが目指してたことだったの?となるとちと心許ないなぁ。意識して聴くとかなり奇妙な印象を残すんですよ、えぇ。

この、「音源の位置がわかる」というのが本当に曲者で。以前にヘッドフォンで聴いた時の感想でも書いたけれど、音源の位置をそれなりに確定させる為にその音源の音自体に制限が掛かる。ここで取り上げたいのは残響のバリエーションが少なくなる点だ。

残響というのは、教会音楽なんかを思い浮かべてもらえばいいが、広い空間で、本来の音の出所と異なる時間と空間から音が返ってくる現象のことだ。ほぼほぼエコーってやつですな。それを様々に工夫することで豊かな音色を実現させるのだけれど、これをやりすぎると音の出所があやふやになっていく。故に位置情報の威力を削がないためには残響のバリエーションを減らさずを得ず、いきおい全体的に締まった音色に落ち着いていく。或いは「キュッとまとまった」音とでも言おうか。そういうサウンドが好きな人には朗報だが、そうでない人に対しては「少し音が地味に、固くなったなぁ」という印象を与えるかもしれない。特にヒカルの歌声はその「響き」が結構重要なので、普通のハイレゾステレオ音源と較べると印象が変わるおそれがある。まぁ好みの問題として片付けてもいいんだけどねこの程度なら。

そして、再三再四指摘してきた「普通の平面映像との組み合わせ」は当然改善されないまま。まだ生まれたばかりの技術なのでこれは時間が解決してくれるだろうから(と言っても一流の技術者が頑張って、なんだけどね)悲観はしていないが2023年時点でもそんな感想だったという事は備忘録の為にここにそう記しておこう。

そんな中でいちばん感動したのがヒカルのMCだ。YouTubeで確認できる通り、曲間のMCは全体を引きで捉えていて(あのライブミニアルバム『40代はいろいろ -Live from Metropolis Studios』のジャケットのに近いアングルっすね)、その中でヒカルが中央で立ち姿で映っていて大変可愛いのだが(いつものことだね)、その喋りを聴いてる時に「うわ、声が口の辺りから出ているぞ!」と思えたのだ。これは収穫だった。その時初めて、ヒカルのマイクの空間位置座標が画面中央やや上辺りに設定されているのだと感じる事が出来た。いやぁ、視聴会の中でいちばん「リアリティのある」体験だったですよここが。いやホント、これはこれでいいんだけど、マジで定点カメラ映像と360RA音声の組み合わせでコンテンツ作ってみた方がいいのではないの? 過渡期ならではの徒花になるだろうとはいえ、ね。外からみると地味極まりないからね定点カメラって。

まぁそんなこんなで課題は山積しているが、それというのも360RAという規格がヘッドフォンで聴くのとスピーカーで聴くのでまるで異なる音作りをしないといけない…というか、スピーカーを置いた部屋の広さまで勘案しないといけない仕様になっているのが大変なんだよね。今までのステレオ音源ってヘッドフォンで聴くのもスピーカーで聴くのも同じ音だったんだけど、次世代の立体音響はそこを配慮しないといけなくなりそう。

もう実際ヘッドフォンの方は「耳の写真を撮って送る」事で個人最適化を行っているわけで。となると次はスピーカーを置いた部屋の写真(360°写真とかあるよね?)とリスニング・ポイント(聴く人が居る位置と高さ…座って聴くのか立って聴くのか寝て聴くのか)の情報を送ってカスタマイズして貰うようになるかもしれへんね。具体的な方法論は専門家に任せるとして、それくらい面倒な設えが要るという事実がこの技術の可能性を物語っている。そこは大いに期待したい。

でも、ポピュラリティを得られるかどうかという問題はまた別だからねぇ。日本の住宅事情を考えると他の国の方が流行ったりしそうよねスピーカーで聴く360RAって。でもそんな時も宇多田ヒカルは強力なコンテンツ。世界中で聴かれてるからな。なので今後もエピックソニーに居る限り協力していくことになりそうですわ。

…とと、日記がいつもより相当長くなったか。いやまぁ、通常更新で何回かに分けて書こうかなと思いかけたんだけど読んでて楽しい話でもないし(興味深くはあるかもしれんが)、メーカー発の規格の課題云々なんてヒカルには直接関係ない話なのでさっさと済ませてしまおうかなと思いまして。ハッシュタグもつけずにおこうか。ただ、前も書いたとおり360RAに基づいた作曲ツールがアーティストに配られたら事態は一変するかもしれない。それこそ『Laughter in the Dark Tour 2018』で聴かせてくれた『SAKURAドロップス』のアナログシンセ演奏とか、『気分じゃないの(Not In The Mood)』のインストパートとかを新時代の立体音響で聴かせてくれたら悶絶必至だろうし…だなんて妄想を呟きつつまた平日にお会い致しましょうノシ