無意識日記々

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「別バージョン」のリミックス??


前回、ベストアルバムの性質はリレコーディング曲とリミックス曲の方向性次第、なんて話をした。


リレコーディングとはその名の通り、まるっきり「録り直し」を指す言葉なので、あまり意味に揺らぎはない。厳密に言えば過去と全く同じ楽譜同じ編曲であっても再演奏再歌唱を再録音したものならリレコーディングと読んで差し支えないのだが、普通は再編曲されたものを録音することになる。


一方、「リミックス」というのは多岐に渡る…というか、結構定義があやふやなのだ。この日記ではいつも厳密な意味…「新たなレコーディングは行わなず、既に録音してある素材を混ぜ直して制作した音源のこと」をリミックス曲と呼びたがっているが、現実には新たに録音した素材を使った音源もリミックスと呼ばれている。ので、リアレンジやリプロデュースなどとの区別がつかない。ここらへん、単なる用語の使い分けの話であって別に音源の聞こえ方が変わるわけではないからさして重要な話ではないのだが、やっぱりなんだかんだで釈然とはしない。


宇多田ヒカルの場合も例外ではないというか、過去に何と呼べばいいかわからない例も幾つかあった。最たるものが『DISTANCE』と『FINAL DISTANCE』の関係性で、『FINAL DISTANCE』は「『DISTANCE』のリミックス」なのか「『DISTANCE』のバラード・バージョン」なのか、或いは曲タイトルが違うんだから別の曲と見做すべきなのか、今でも定説がない。テンポも楽器も編曲も全然異なるけど、歌詞もメロディも大体(総てではない)同じだしね。


そこらへん、適当というか流動的なとこあるよなヒカルさん。例えば『Passion』には『Passion ~Single Version~』と『Passion ~opening version~』がある。ここまではいい。リミックスと呼ぶかは棚上げするとして、ひとまず「バージョン違い」には違いない。だが、もうひとつの別バージョンの曲タイトルは『Passion ~ after the battle ~』なのだ。remixとかre-arranged とかnew versionとかの表記はない。ただサブタイトルをつけただけだ。一応別バージョンという認識はされているが、間違っても「after the battle version」とか呼ばれないのである。更についでに困った事に、アルバム『ULTRA BLUE』に収録された際の曲名表記はただの『Passion』になっていた。マスタリングは異なるものの、トラックとしては『Passion ~ Single Version ~』と同じものであるのに。ほんとこの曲のタイトル表記は訳がわからない。


そんな宇多田ヒカルなので、今回の『SCIENCE FICTION』収録曲の曲名表記にそこまでこだわりや厳密な分類などはないと思われる。リレコーディングテイクよりリミックスの方が変化幅が大きかったりするかもしれない。そういうことが十分にあり得るので曲名表記を今からあれやこれや論ずるのは無駄な事だとはよくよくわかってはいるんだけど、一曲、これだけは気になったというのがあったのでちょっとだけ今のうちにコメントしておきたい。その曲とはDISC 1の11曲目に収録されている


Flavor Of Life -Ballad Version- (2024 Mix)』


なのだ。そう、これ「バラード・バージョンのリミックス」って病気なのよね。


元々のオリジナルバージョンはアップテンポの『Flavor Of Life』で、これを提示したらタイアップ相手からバラードが欲しいと言われて用意し直したのが『Flavor Of Life -Ballad Version-』である。バックのストリングスも新たに録音し歌もバラード用に録り直しているので流石にリミックスと呼ぶのは無理がある、かな。曲名表記は通り「バラード・バージョン」だろう。


しかし、リミックスというと、アップテンポをバラードにしたり、その逆にバラードをアップテンポにしたりといったことも結構ある。つい最近の『Gold 〜また逢う日まで(Taku's Twice Upon A Time Remix)』なんかもそうだよね。それくらいに大胆にサウンドを変える場合でもリミックスって言う。だったら、もし今回の『SCIENCE FICTION』の『(2024 Mix)』が大胆な変化幅を持ったものだというのなら、だったらこの曲名表記は


Flavor Of Life (2024 Mix)』


で全然別に構わなかったはずなのだ。しかしこれはあクマでバラード・バージョンのリミックスだというのだ。つまり、今回のリミックスは、そこまで大きな変化を加えているわけではないから、バラード・バージョンをリミックスしても依然バラードと呼べるものになっているよ、ということなのだろうか? 例えば『Flavor Of Life - Ballad Version-』のPLANiTb Mixとかあったら、オリジナル・バージョンに先祖返りしそうだから、だったら表記はシンプルに『Flavor Of Life (PLANiTb Mix)』とかにしちゃってもいいだろうに。そこを敢えての、なんだろうか?


とすると、じゃあ他の曲の『(2024 Mix)」も、そこまで大きく手を加えてるわけではないのかなぁ? 何しろ四半世紀を超えるキャリアで初めてのベスト盤なんだから、代表曲を進取的に解体再構築するような大胆な方策をとるより、ちらっとサウンドを現代の耳にも馴染むようにブラッシュアップする程度に留めておいて、ライトファン/リスナーに受け入れてもらいやすくする程度のリミックスに留まっているのだろうか? うーん、まだここはよくわからんね。早く聴いてみたいなぁ(この台詞で〆るの案外珍しいのであった)。