SFツアーのセットリストは三宅さんが素案を出してヒカルが調整するという過程を経て決まっていった旨ヒカルが(Spotifyクロニクル第4回で、だよね?)語っていた。これだとあんまりヒカルが主体的に決めたものではないのかなという解釈になりがちだけど、結果的には大きく本人の意向が反映されたものになっていると思われる。
というのも、前回の『Laughter In The Dark Tour 2018』の当無意識日記の擬似ライブレポ(都合40回分以上あるのでおいそれと読み返したりしないようにっ)で散々指摘した「ヒカルの感情とセットリストの主張の齟齬」のようなものが、今回は感じられなかったからね。セットリストがヒカルの感情によく寄り添っていたと感じられた。…って私の主観による判断でヒカルの意向を慮るってかなり傲慢な話の持って行き方なんだけれども。
今回のヒカルは観客席に向かって「スマホ置いて!」などとかなり(ヒカルにしては)強い口調で告げてたりして、「みんなで燥いで楽しもう!」という気分がいつもより一層強かった。それが一番象徴されたのが、ベストアルバムに収録されていないのに敢えて採用された『Keep Tryin'』と『Kiss & Cry』の選曲で、この2曲は“観客を巻き込む力”においてヒカル屈指の魅力を誇る。いやそりゃあたしも一緒にワイパーしましたよ。(手を左右に振るやつね)
裏を返せば、今回は、前回ツアーと異なり、ヒカルの絶品の歌唱力を聞かせる場面が少なかった。それこそ歌の力で山場を作ったのは『誰かの願いが叶うころ』と『花束を君に』『何色でもない花』の花メドレーくらいでな。まぁ終始攻め立ててたよね。『First Love』なんか、本人、「盛り上がる曲の間の箸休め」程度にしか捉えてなかったもんなぁ。
おかげさまで、既述の通り、ヒカルの歌唱力で引っ張っていく名曲群、『SAKURAドロップス』『Flavor Of Life -Ballad Version-』『Prisoner Of Love』『初恋』『誓い』といった名バラードたちは悉く歌われなかった。改めてこんな強力なラインナップをあっさり削れる25年に及ぶ歴代レパートリー全体の充実度には恐れ入る。
また、ライブで歌われた曲であっても、例えば『Letters』や『COLORS』などは、その時のツアーによってはバラード・スタイルのアレンジに改変されることもしばしばなのだが今回はきっちりとアップテンポのライブ・ソングとして歌われていた。両曲ともスタジオ・バージョンにはない豊かなパーカッションの挿入が生演奏ならではの華を添えていたのも印象的だったな。
つまり、総じて、
・そもそも盛り上がる曲を沢山選んだ
・歴代のバラードの名曲はかなり削った
・どちらにも転べる曲は激しい方の編曲で
という風に、ひたすらライブに熱気を与える方向でヒカルが全体をコーディネートした印象になっているのだ。こういった様々な要素の絡み合いまで考慮すると、やはり三宅さんがセットリストの素案を持ち込んだのは一要素に過ぎず、ヒカル自身が主導権をとってセットリスト全体を睥睨俯瞰したイメージが強く浮かび上がってくる。初めて自ら望んで臨んだツアーだけあって、かなり気合を入れてくれてたんだなと思わされたですよ、えぇ。