話をざっくり整理すると、アニメーション映画のエンディングで流れるPopsの楽曲の潜在的理想として光が5歳の時に聴いたというTM NETWORKの"Get Wild"があるのではないかという話だった。
Get WildのリリースからBeautiful Worldの発表まで20年。その間に状況の変化があった。小室哲哉のブレイクにより、俗に言う"TKサウンド"がJ-popの中でひとつの典型的なサウンドスタイルとして認知された事だ。少なくとも90年代中期は彼の天下だったと言っていい。TM NETWORKにもステータスがあったとはいえ、そのサウンドに対する認知度は段違いだったといえる。
つまり、Beautiful Worldが発表される07年には、TKサウンドは過去の流行として相対化されていたという事だ。ここからは匙加減の問題になる。あからさまにTKサウンドを踏襲すると単なる時代遅れだが、さりげなく影響を匂わせる程度ならそれはリスナーにとって"過去にJ-popとして通ってきた道"だと感じさせる事ができるのではないか。即ちそれはPopsとしての安心感と安定感。
今までBWの「100%宇多田ヒカルの好みという訳ではない」という側面は、EVAというアニメ作品に対するリスペクトからきていたと解釈してきた(というかヒカルが大体そう言っていた)のだが、こうやって整理し直してみると、宇多田ヒカルとしての大きなこだわりである"Popであること"についても、「100%好みではない」側面が出ているという事になる。それを結び付ける存在として幼い頃に「CITY HUNTER」のエンディングでみた"Get Wild"があった、というのは幸運というか当然の帰結というか。原体験が20年の歴史を経て社会現象の一部になるというのもドラマティックだ。16歳にして自ら特大の社会現象になった人としてはさほど驚く事ではないにしても。
さて、Beautiful Worldについて整理し直した所で桜流しである。これも又、映画のエンディングテーマとして作曲された曲だが、果たしてBWに適用された3点、「アニメソングである事」「映画のエンディングで流れる事」「宇多田ヒカルによるPopソングである事」についてはどうなっているであろうか。次回に続くのであった。