無意識日記々

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せっかくラスキスでスッキリしてたのに。

※ 映画の内容に触れています。

概ね好評の「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」だが、画竜点睛を欠く点が一点だけある、と私は思う。それが『Beautiful World (Da Capo Version)』だ。

真っ先に(そしてこれからも何度も)念押しをしておきたいのは、このトラックは音楽的に優れていない訳では無い、という点だ。悪くない。あぁ、悪くないさ。しかし、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」という映画作品の一部としてみた時どうしても不満が残るのだ。

『One Last Kiss』とメドレーで序破の主題歌であった『Beautiful World』の新しいバージョンを繋げるというアイデア自体は素晴らしいし、実際奏功していたと思う。今のところ自分はDa Capo Versionについて否定的な意見を…そうね、ひとつも目にしていないな。感動したというのが大方の感想だろう。よって今書いてるのはどちらかというと難癖扱いされるヤツになるかな。

そう、大枠はそれでいいのだ。だが、その具体的な方法論についてはどうか。有り体に言って、意図が全くわからない。こういうバージョンとして構成して、シンエヴァのエンディングで何を表現したかったのかが見えてこなかった。

前回触れたように、シンエヴァは、暴力的ですらあった旧劇版の終劇とは対照的に「優しくスッキリエヴァを終わらせる」のがコンセプトの柱としてある。故にこの映画を観た長年のファンは憑き物が落ちたような顔をして映画館を出てきたはずだ。阿鼻叫喚のカプ厨の皆さんは別としてねw

Da Capoはそれとは…対極にすらない。アンチテーゼでもない。シンプルに、エヴァの映画を観に来た観客へのメッセージ性が薄いのだ。何かを伝える、訴えるという機能がない。直前の『One Last Kiss』がシンエヴァのエンディングとしてのメッセージに溢れまくっていた為その対比は余計目立った。

大筋では、本来の『Beautiful World』のヒカルによるメロディと歌詞が踏襲されている為、「新劇版全体のエンディング」としての機能はちゃんとある。あクマでサウンドメイキングの話なのだ。不穏な緊張感とか、持って回った構成とか、エヴァが四半世紀越しで終わって大団円を迎えてる今それ要る? このあとなんかあるのかいやないよねとか、映画館で聴きながら不安になったよ。せっかくラスキスでスッキリしてたのに。

こんな凝ったサウンドで不安感を与えるくらいなら、劇中の碇ゲンドウの「知識とピアノ」のセリフを受けてピアノ弾き語りの『Beaw World』を聴かせてくれた方がまだよかった。実際あたしゃ彼のこのセリフを聴いた時にエンディングはラスキスから桜流しとBeautiful World のピアノインストメドレーでしめるんじゃないかと予想してた位。

いや確かに、ここでピアノ弾き語りバージョンなんて発表するのは宇多田ヒカルのアーティストシップとしてはプラスにならない。だが、こういうよくわからない「他人事」なサウンドで来るくらいなら、思い切って映画に全振りしたトラックの方がまだしもよかったんじゃないかと思った。

それにしても、庵野秀明が依頼してヒカルが制作したのになんでこんな事になったのか、鑑賞後に記事を読んでそれがいちばん不可解な点だったのだが、昨日買ってきたCDのブックレットを見て、「あぁ、そういうこと…」と合点した。

「Produced by Nariaki Obukuro and Hikaru Utada

なりくんが関わってたのね。なるほど、言われてみれば宇多田ヒカル小袋成彬の『丸ノ内サディスティック(Expo Version)』のスタジオバージョンと同じ感じだわこれ

…。

あたしとしては、たとえ「今」に結実しなくとも、未来に向かってサウンド・チャレンジしていく姿勢は評価したい方だと自認してるのだが、それを他人んちの映画作品の一部でやるんかいな…なんだか大昔にきりやんに「その内容をキャシャーンの名前借りてやるなよ…オリジナルでやれよ…」と思ったのを思い出してしまったよ。いつもならいいけど、今回ばかりは控えて欲しかったなぁというのが本音だわ。

勿論、彼だけでなく同じくCo-Producerとして名を連ねているヒカルにも同じだけの責任がある。もともとアーティストシップとタイアップという相克と葛藤になりがちなテーマを融和的に解決することこそ宇多田ヒカルの真骨頂ではなかったか。それを鑑みるとそこはちょいと残念。『Beautiful World』本来のヴォーカルラインを切り刻まなかった点は素直に評価したいけど。

実際、明けて『One Last Kiss』EPを通して聴いてこのDa Capoからオリジナルの『Beautiful World』のイントロが流れ出した時の爽快感といったらもう、ね。「こんなことならこれそのまま流した方がよかったのでは」とすら思っちゃったよ。それは極端にしても、ほんのちょびっとだけだけど、シンエヴァ鑑賞後の読後感がこんな風になったのは、ほろ苦かったわ。