なんだかイヴの夜らしいので、Can't Wait 'Til Christmas の話でもするか。熊淡今年最後の曲でもあるしね。
直訳すると「クリスマスまで待てない」になる。これだけを聞くと人は大抵「あぁ、この人はクリスマスが待ち遠しくてたまらないんだな」と解釈する。「クリスマス早く来ないかな〜もう待ち切れないよぉ〜!」みたいなノリである。「早く来て欲しい」から「待って居られない」「居てもたってもいられない」「何ならこっちから出向こうか」という意味での"Can't Wait"だと思う。普通は。
勿論これが、Hikaruの歌詞の持つマジックだ。Easy Breezyの歌詞の解説の時にも触れたが、歌のタイトルや詞を、流し聞くような人に与える印象と一字一句聴き逃すものかと構えているマニアたちに与える印象が違えられているのだ。たがえられて、ね。
意図的だろう、そりゃ。そして、そのリスナーの"軽さ・重さ"に従って、伝わるメッセージの"軽さ・重さ"まで調節されている。名人芸という他無いが、一体こんな事毎度どうやってるのか見当もつかない。
キャンクリの歌詞をみてみよう。
冒頭がいきなり、
『クリスマスまで待たせないで』
となっている。言葉のチョイスがホント巧い。ここは、はたと立ち止まって冷静になればわかる。『待たせないで』。ここで、待ち遠しいのは"クリスマスではない他の何か"である、と気付くかどうかでリスナーが別れる。その後にこう来る訳だ。
『何でもない日もそばにいたいの』
言葉の意味を丁寧に追っている人ならここで気がつくのだ、「あぁ、この歌の主人公はクリスマス自体には興味がないんだな」と。クリスマスは一年の中でも特別な日だが、そんな日にならなくても
『I'm already loving you』
もう私は貴方に恋してるんだから、と。クリスマスなんか関係なく、ね。
…どっちにしろリア充の歌なんだけどね…。
しかしこの歌、二番はこんな風に切り込んでくる。
『白い雪が山を包む
渡り鳥がしばし羽を閉じる
二人きりのクリスマスイヴ』
ををっと、もうクリスマスイヴが来てしまった。目に入る風景はまさに銀世界、ファンタジックなホワイト・クリスマス。冒頭はクリスマス関係なさそうな顔してたけどやっぱりイヴの夜には…と合点しようとすると、こう来るんだな。
『会う度に距離は縮むようで
少しずつ心すれ違う』
なんとまぁ、会っても心にズレがあると宣う。あんたらラブラブと違たんか。更にこうなる。
『約束事よりも今の気持ちをききたくて
クリスマスまで待たせないで
人はなぜ明日を追いかける?』
これはもう、(以前も述べたように)"Be My Last"の
『いつか結ばれるより
今夜一時間会いたい』
の世界である。一応、地味だがこの夜はクリスマスイヴなので『明日を追いかける?』の"明日"はクリスマスの事だ。なんで人は未来のクリスマスばかり追い掛けて今を大事にしないのか、という台詞で"明日"という言葉を使いたくてこの場面はクリスマスイヴなのだ。まるで尾田栄一郎みたいな日付の逆算の仕方だ。どぉゆう意味や。
で、最後の台詞に繋がる訳だ。
『大切な人を大切にする
それだけでいいんです』
大切にするのはクリスマスという日、クリスマスというシチュエーションではない。そこで一緒に過ごす人なんだから、今がクリスマスだろうがなかろうが関係ない。一緒に過ごす人とその今を大切に、とまぁそういうメッセージが込められている。ヒマラに比べて随分Popで軽く聞きやすい曲だが、最終的に辿り着くメッセージは両者変わらず重々しい。こういう"コーティング"が出来るようになった、というのは宇多田ヒカルの大きな成長だったのかもしれない。そして私が待ちきれないのは彼女の次の歌…。