無意識日記々

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ヒトそれぞれ

先々週発売されたBURRN!10月号にブルース・ディッキンソンのインタビューが載っているのだが、凄絶。癌との戦いが如何に過酷だったのかが如実に伝わってくる。何より、本人がどこまでいっても軽妙でユーモラスな口調で語っているものだから余計に、だ。闘病記というとどうしても暗く重くなりがちだが彼は新しい宿題を出された学生みたいにノリノリで幾多襲い掛かる苦難に立ち向かってゆく。今年頭から始まった闘病生活の挙げ句彼は来年2016年からツアーに出るという。彼、ブルース・ディッキンソンがツアーに出るというのは(もう随分有名になった事かと思うが)尋常な意味ではない。何しろ、大所帯のクルーと大規模な機材を載せた飛行機を、彼が操縦して世界中を飛び回るのだから。そして夜は2時間のコンサートでステージを(彼の場合、誇張無しに、文字通り)終始走り回って歌うのだ。癌治療明けの60歳近い初老の男がだよ。

もう、ひとつの生命体としての生命力が根本的に違うのだろう。彼のバイタリティは昔から桁外れだった。フェンシングの国内選考会では第7位であわよくばオリンピック代表も狙える位置に居たというし、本を著せばベストセラー、アイアン・メイデン唯一の全英No.1シングルは彼のペンによるものだ(アルバムは過去5回全英No.1を獲得している)。大学では史学を選考していたというし、彼ほど多才多芸な人物を他に知らない。この歳になってほぼ初めてピアノを触り、作り上げたのが最新作に収められている18分の楽曲。一体その生命力はどこから来ているのか。もし彼がハンサムだったら史上最大のスーパースターだったろうな。

って話は前もしたか。癌治療の話は初めてかな。こういう人は、逆境になっても全くと言っていいほど諦めず、即座に対処方法を見つけ出し忽ち実行に移す。くよくよ悩んでいても仕方がない。それでも丸2日落ち込んだらしいが、それだけである。嗚呼、順風満帆とは環境に恵まれた訳ではなくて、帆を張るのみならず順風自体を自ら生み出す事で手前に引き寄せるものなんだなと彼を見ると思う。


まぁ、なんだ、それは異世界の話。僕らのような弱々しい凡人には『向かい風がチャンスだよ今飛べ』と言われても怖くてすくんで何も出来ない臆病者の歌の方が似合っている。強さに憧れるのも大事だが、弱さを知る事もまた必要だ。甘えとかいう前に、どうしたらうまくいくかをまず考えよう。

今回のヒカルは闘病ではなく出産であった。一大イベントだが、健康だからこその出産であり、育児である。直前までスタジオ入りしてたとかもう作業を再開したとか言うけれど、健康なのだから至って普通の話だ。ヒトはずーっとそうやって生きてきたのだから。何がどうであっても、作品が総てを物語る。どちら向きでもいい。後ろ向きだろうが前向きだろうが、向かい風だろうが追い風だろうが。ただ待つだけだ。ただ、やはりセンス・オブ・ユーモアだけは見失わないようにしたい、かな。