無意識日記々

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ラストはバカボンノパパにご登場願った

『Forevermore』を初めて聴いた時の感触は不思議だった。私にとっては、だが。

繰り返しになるが述懐すると、TBSのドラマ主題歌で『F』から始まる曲名だからてっきりオーソドックスなラヴバラードだと思っていたのだ。でも実際は違った。どちらかといえば、そういう"世間の期待に応える宇多田ヒカル"というよりは、"内面的な要求に応えてくれたヒカル"だ。確かに、『For You』に触れた時の感触に近い。

「不思議」と言ったのは、自分の"内面的要求"がヒカルとは関係無い所で構築されていた(…と思い込んでいた?)からだ。自分はヒカル以外の音楽も(当然)聴く。その中で、最近足りていないというか、ここらへんを埋めてくれる音楽があったらいいな、と思うか思わないかの段階で、ヒカルの『Forevermore』が飛び込んできた。もっと言ってしまえば、私はこういう曲に出逢いたがっていたのだとこの曲に出逢う事で気がついた、んだな。内面の種が萌芽するか否かの段階で咲いた花を摘み取られたような。速攻・速効にも程がある。ブルース・ディッキンソンの歌詞で「生まれてもいない子を殺す("To kill the unborn in the womb")」というのがあったけれど、なるほどこういうことかと。

とまれ、砂時計のくびれは均されたのだ。時の砂はすとんと落ちて、『Forevermore』が表れた。ただただ感服するしかない。

室内楽を思わせる弦の前奏がいつのまにかジャズ・ロック的なスイングするビートに取って代わられる。それを数珠のように繋ぎ合わせるのがヒカルの、何か少し怨念がかったような、純粋な歌声である。純粋過ぎて嫉妬に駆られるような、そんな危うさ。しかしサウンド自体は大人のソレであり、「わかってるよね?」という圧力に「いいえ」で返せる気迫も勇気もない。「わかんないよ」と裸の王様をひんむく事が出来れば痛快かもしれないが、それをしたら結局何もわからないままなのだ…


全編聴くと、もっと少しポップな曲としての印象を残してくれる気はする。なぜか『Letters』を想起するのだが似ている所はあるのだろうか。歌詞に『手紙』とでも出てくるなら話は別だが。

不思議を通り越して奇妙、かな。ヒカルとは関係ない筈の極個人的な心理の流れの先を読んでサーブされてくる…料理店に入ったらメニューを開くや否やメインディッシュをテーブルに置かれて「お客様が本日こちらにいらっしゃいましてご注文なさるお料理はこちらです」と言われた気分。そう言われると、確かにこれを注文していた気がする。未来の記憶を先に手繰り寄せられて、勝手に噛み砕いて放り出された。何故ここにヒカルが居るのだろう。最もわかりやすい答えは、どこまでも掌の上でしかないという事なのだ。逃れる術はない。無論、逃れたいとも思っていない。これでいいのだ。