無意識日記々

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「★」

年始からゴシップだ大事故だ訃報だと三面記事に事欠かない日々が続いているが、目下のところ私にいちばんインパクトが強かったのはデヴィッド・ボウイの「★」(ブラック・スター)アルバムだ。

ある意味、彼の訃報よりもインパクトが強い。私は決して彼の大ファンだった事は無いし、テレビでTIN MACHINEのライブを見て「何このつまんないバンド。こういうのがでしゃばってくるから日本で洋楽が敬遠されるんだ。」とかなんとか随分と酷い事を言ったりしてたもんだが、「★」は凄い。こればっかりは、ぐうの音も出ない。

冷たい事を言うが、私からすればボウイが生きていようが引退してようが亡くなっていようが大した違いは無いのだ。勿論20世紀を代表するロックスターだしその影響力は大きいが、極端な話彼の訃報を聴いても特に悲しくはなかった。彼には取り立てて思い入れがなかったし、これからもない。

つまり、はっきり言える。世界中が多分ボウイに対して感傷的になっていて、「★」も涙なくしては聴けない作品になっているだろうから、正直真っ当な評価を下せる人が殆ど居ないんじゃないかと思う中、私なら言えるのだ、「★」は名盤である、と。本当に素晴らしいアルバムだ。

余りにも物語がつきすぎてしまった。死期が近づく中18ヶ月に及ぶ闘病生活の中、最後の力を振り絞って作り上げたラスト・アルバム。発売日の2日後に死去。全英チャート初登場No.1、これで10枚目のNo.1。全米チャート初登場No.1、これが初めての(そして、新作としては最後の)全米チャートNo.1。もう付随する物語が満載だ。誰もが言う。「ボウイは死ぬまでカッコよかった。いや、死んでから後もなおカッコいい。」と。全く異論は無い。正真正銘の超スーパー大スターだ。

っていう話を全部切り捨てても「★」は黒く輝き続ける。ボウイの名前なんか要らない。いやブラック・スターというのはスーパー・スターたる彼自身の事だろうけれど、ボウイの事を1mmも知らなくても「★」は名盤だ。

ただ、Popsとしては聴けたもんじゃない。私にとって「★」は、真性の“プログレッシブ・ロック・アルバム”だ。形骸化したプログレというジャンルにとどまらない、本来の意味での進取的な作品である。いや確かにピーター・ガブリエル的なパフォーマンスをみせる1曲目から始まってデイヴ・ギルモアが書いたみたいな曲で終わるので往年の意味でのプログレらしさも沢山あるのだけれど、どちらかというと、OpethやAnathemaのような「21世紀の今を生きるプログレッシブ・ロック」に近い。こんなサウンドを68歳の老人が完成させていたとは驚異的以外の何ものでもないが、上述の通り、制作者の年齢など知らなくても名盤なのよ。


という感動の仕方を今しているので、今年発売されるヒカルのアルバムも同じように評価する事に決めた。今年のヒカルは沢山の物語を背負える。母を喪った、結婚した、息子が出来た、J-popの復権、邦楽市場の起爆剤椎名林檎の恋慕や浜崎あゆみの出迎えなど(これについては宇野さんがたっぷり語ってくれてはるので「1998年の宇多田ヒカル」の方をどうぞ)、枚挙に暇がない。更にアジア市場、欧米市場、人種の壁、クール・ジャパン…語れる事は幾らでもある。

だから僕は、だからこそ僕はそれらの事を一切知らない体でアルバムを聴こうと思う。ヒカルに何の思い入れもない人が聴いても、それでも聴いて感動できてこそ真の名盤だろう。そうやって聴いて評価した後で、思い切り物語について語っていく。ハードルをまたぐっと上げさせてもらった。本当に、せいぜいアルバム制作頑張ってくだされお誕生日おめでとう。