無意識日記々

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敵を消す方法

震災から5年か。

「First Love」発売記念日が3月10日。震災が3月11日。つい3日前まではこの並びはどちらかというと"都合の悪い"ものだった。毎日が誰かのお誕生日で毎日が誰かのお葬式なのだからそんな事は本来気にしなくてよいのだが、それはそれで何となく気が引けた。今回も、ただヒカルの復帰を祝う為に3月10日を再スタート宣言の日として選んでいたとしたら、途端に空気が浮いていた筈だ。翌3月11日が震災5年の日だから。盛り上がりは持続しない。

ならば、と。ここで「では真正面から向き合ってみましょう」となったのが宇多田ヒカルらしいというか。いやヒカルには「では」すら不要だろう。自ら被災地に赴いていた身としてはそんな事が無くても向き合ってきていた事だろう。真心。総ての出発点はそこにある。

ヒカルの復帰と「さくら並木プロジェクト」を繋げる事で、震災を真正面から振り返り、そこから力強く生きていこうというメッセージを表現する。アクロバティックというかウルトラCというか。この発想故に、3月10日と3月11日が並んでいるという事実が途端に奇跡のように思えてくる。奇跡を生むのは人なのだと。

そして、今の今まで曲のタイトルが伏せられていた理由も判明する。ただ復興支援と繋がるだけではなく、曲のタイトルまで連動していたとは。「さくら並木プロジェクト」は、支援によって桜の木を植樹し花を咲かせようというプロジェクト。支援者はつまり、花の贈り手である。「花を贈る」という共通点が、『花束を君に』と「さくら並木プロジェクト」にはある。確かに、これは先に言う訳にはいかなかった。同時発表でなくてはね。

支援の仕方がまた工夫されている。賛同企業を募りながら、ヒカルのコンテンツを購入する事でも参加する事ができる。本来ならかなり危うい手法だ。他の人たちは真似しない方がいい。ヒカルの真心が出発点だから、ひとつひとつの手法の意義が誤解されにくくなっているのだ。

それでも、何か言ってくる人たちが居るだろう。ただ見ているだけでいい。ヒカルの真心が如何に強固で繊細であるかをその度に確認する事になる。

少しズレを孕んだ言い方をすれば「敵を味方にする」手法である。無為な諍いをどうやって避け、協力し合っていけるか。知恵を絞るしかない。それがよくわかるプロジェクトだ。どこからどこまでを誰が考えたかはわからないが、全方位を「味方につけた」組み合わせ方は、いやはや、感嘆しかない。

「敵を消す」為には、やっつける以外に「そもそも敵でなくする」というやり方がありますよと教えてくれる企画である。逆手にとる、以上の何か。ヒカルの真心が貫かれているのが見える。