昨夜の「NHK SONGS」の放送が終わって、いよいよアルバムリリースを待つばかりとなった。日曜日には先行試聴会があるのでそこからグッと解禁ムードが高まるだろうか。これで『桜流し』『花束を君に』『真夏の通り雨』『道』『二時間だけのバカンス』『ともだち』とアルバムの半分以上の楽曲が露わになった。アルバムの全貌とは言わないまでも、後ろ姿、いや横顔くらいは見えてきた気がする。
しかしそこは宇多田ヒカル、残りがアルバム曲だからといって埋め合わせのトラックなのかというとそんな事がある筈もなく。先行公開された楽曲たちはティザーとして優れていると判断されただけで、クォリティーの面では、少なくともこの日記を読みにくるような酔狂なファンにとっては区別をつける理由などないだろう。
特に、もうひとつのフィーチャリング曲である『忘却』とヒカル自身が最も誇らしいと言い放つ『人魚』が未公開なのは大きい。いずれも、昔でいえばアルバム発売後のシングルカット候補曲になるのだろうか。楽しみである。更に『俺の彼女』は『The Workout』くらいにはセンセーショナルだろうし、『人生最高の日』はもうタイトルからして期待を煽られずにいられない。個人的には、長編小説を読んでしっかり準備して聴く『荒野の狼』も楽しみだ。どうやら、相変わらず隙のないアルバムに仕上がっていそう。
だが、正直なところバカ売れする予感は無い。例えば雑誌「MUSICA」には三者レビューが載っていたが、手放しで絶賛する内容はひとつもなかった。かといって内容に苦言を呈するようなものもなく、全体の印象は「最高傑作ではないが、ブランドの名に恥じない手堅い新作」という程度の評価を匂わせている。
そこを切り込んで「いや、この楽曲にはこういう魅力があるんで」とひとつひとつ薙ぎ倒していくのが無意識日記の芸風だが、残念ながら宇多田ヒカルはPop Musicianだ。そんな注釈はなしに、聴いた瞬間から恋に落ちるような即興性のある歌を書かなければならない。周囲からそう期待されているし、本人もその期待に応えようとしている。無意識日記のように、「別にPopsじゃなくていいんですけど」と言って出迎えるのは反主流派なのだ、その人数の多寡にかかわらず。それを残念ととるかだから宇多田ヒカルなんだと前向きに捉えるかはまた別の問題になるけれど、相変わらずそれが一対一の関係性に還元されるというのであれば特に気にする必要もない。これからの二週間くらいをしのげばまた静かな日々が来るかもわからない。ツアーが始まったらそんな事言っていられなくなるけども!