無意識日記々

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生理的快感に於いて最高傑作

『Forevermore』のサウンドは生理的快感に満ち溢れている。『大空で抱きしめて』では構造に感情を埋め込むとか難しい事にチャレンジして(成就させ)こちらの脳みそを刺激しまくってくれたが、当然こちらも歌詞に構成はあるものの、インストがインストとしてユニークに魅力を放ってくれているお陰で容易に切り離して音楽を楽しむ事が出来る。要は歌詞を無視できるのだ。これは(ただ楽しみたい向きには非常に)ありがたい。

その生理的快感の源泉は過去初とも言える正統派ジャズ・ロックみたいなリズム隊、ドラムス&ベースである。ドラムスの方は盛んに梶さんがアピールしていたクリス・デイヴ。恐らく間近でそのプレイを見る事が出来たのだろう。自在なシンバル・ワーク、微妙なニュアンスで強弱をつけていくバスドラとスネア、左右の手足でバラバラのリズムを乱れず統率するバランス感覚と、一流ドラマーらしい妙技をみせつけてくれている。ただ私はクリスのプレイに親しんでいる訳ではないので「これぞクリス・デイヴ!」と膝を叩くべきなのかどうかはわからない。

ジャズロック、と言ってしまったが、この『Forevermore』の所謂16ビートシャッフル的なリズムはお洒落世代のジャズ・フュージョンサウンドと言えるかもしれない。ただ、こんな荘重な弦楽によるイントロダクションからの展開となるとまるでマハヴィシュヌ・オーケストラの大曲みたいな…って書こうとしたんだが案外彼らの曲にそういう展開の曲思い当たらないな。いやいいんだ、そういう重い雰囲気とフュージョン的な軽快なリズムが同居している所が『Forevermore』の魅力の肝なのだ、とわかって貰えさえすればよい。

このテのスウィングするリズムでは、他のジャンルに較べてドラマーによるシンバルワークの比重が大きくなる。ジャズを聴いてるとハイハット・シンバルの相手ばかりしてスネアに手が伸びない、なんて事はよくあるが、『Forevermore』のクリス・デイヴはロック的なまでにリズムの骨格の骨太さを主張しつつもジャズ・フュージョンならではのスウィングするグルーヴも失わない。この彼のプレイなくして『Forevermore』の「シリアスなのにウキウキ楽しい」という一見矛盾した魅力は成り立たない。ライブが今から心配だ。多分またパーカッショニストを迎えてダブルドラムで保険をかけていると思う。所々、クリスのプレイに「あれ今2人で叩いてなかったか?」と思わせるプレイもあるし妥当だろう。

ヒカルのフュージョンサウンドといえば"Spain"を大体そのまま引用した『Hymne a l'amour 〜愛のアンセム』がある。この曲も勿論素晴らしかったが、今回は完成度においてそれを遥かに上回ってきた。いやはや、多分私この曲一年中聴いてると思うわ。それ位に理屈抜きにサウンドとグルーヴが心地いい。「鳴ってるだけで気持ちいい」という点では『Passion』と並ぶ最高傑作ではないだろうか。ライブで聴ける日が、いや、ライブで"体感できる"日々が今から楽しみで仕方ない。いつになるやらですがなっ。