#裸婦抱く 賑々しさから一変する空気

ヒカルの曲には『First Love』を皮切りにTBSドラマの主題歌が幾つもある。近作の『初恋』や『Forevermore』もそうだが、やはりいちばん有名なのは800万ユニットを売った『Flavor Of Life』だろう。年間ダウンロード数2位など、世界規模で話題になった同曲をライブで歌わないだなんて普通のアーティストなら考えられない…のだが、普通でないヒカルは『Laughter in the Dark Tour 2018』で同曲を歌わなかった。すげーな。しかし、同じTBSドラマ主題歌である『SAKURAドロップス』は歌われたのだ。このことからもこのバラードがヒカルにとって及び聴衆にとってどれだけ重要なのかがわかるというもの。

だが、とはいえ普段そこまで大きく取り上げられる曲でもない。年間6位だから知名度も申し分ない筈なのに。多分それは、曲調によるところが大きい。

キーボードによる主旋律が、独特の寂寥感と耽美を湛えているのが、なんていうんだろう、この曲を好きなことを他者にアピールするより自分の中で噛み締めていたい人を増やすんじゃないかと。先週の「洲崎西」を聴いてたら洲崎綾が思い出したように「昔着メロが宇多田ヒカルの『SAKURAドロップス』だった」なんて話をしていた。着うた以前の着メロの時代、素朴な音色に『SAKURAドロップス』の詩的な美しさは詫び寂びを伴って旅愁の趣を誘っていた事だろう。あの時代の空気にも合っていた。そういえば昔増田ジゴロウも『SAKURAドロップス』の着メロに聴き入って番組を止めた事があったな。あまり他者にアピールしたくならなくとも、自分の中で大切にしたくなる詩情が『SAKURAドロップスにはある。それを、年月が経った今でも何も損なう事なくヒカルは表現してゆく。横浜アリーナの空気は賑々しい『Kiss & Cry』から一転して息を呑むような空気が広がっていった。つづく。