嗚呼、歌唱が絶品哉『少年時代(2019)』。同時に『少年時代(2003)』も公開になったので聴き比べができるかと思うが、大枠での話であればほぼ同じアプローチの歌唱だ。寧ろ違いが大きいのはバックの演奏で、ピアノ主体だった『少年時代(2003)』に対して『少年時代(2019)』は弦楽六重奏だそうな。
その弦楽六重奏は「Ensemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)」というグループによるもので、メンバーは尾池亜美(バイオリン)、町田匡(バイオリン)、安達真理(ビオラ)、戸原直(ビオラ)、小畠幸法(チェロ)、飯島哲蔵(チェロ)の6人。編曲は坂東祐大。自己検索用メモに記しておく。
で。これだけの弦尽くしをバックにしてもヒカルの歌唱自体はいい意味で揺るぎがないというか。「歌い方は16年前と同じだが声の出し方が変わった。」というのが定型的な評になるだろうか。今のヒカルの声は『私を慈しむように遠い過去の夏の日のピアノがまだ鳴ってる』のを感じながら響かせているような。それだと冬の日かな。いや歌詞に沿うなら夏の日でいいのか。いずれにせよその歌声はますます精度を高めており、揺らぎの最中に立ち現れてくる美しさには、夢うつつというか、少し幽玄さすら漂っている。
弦楽のピチカートの効果も大きいのか、総じて「子守唄み」が増しているように思われる。昨夜この歌を聴きながら幸せな眠りに就いた人も多かろう。声の響きが柔らかい手触りで、この声に撫でられながら夢の中へと誘われたい。そんな気分。
「夢」。この歌のみならず井上陽水の歌詞ではキーになりがちなワードだが、2019年のヒカルはそこの所に重点を置いたような気もする。それもこれも愛息に毎夜子守唄を歌って聞かせた成果なんじゃないかと勘繰るのだが果たして。今宵もこの歌声に包まれながら眠りに就くと致しますかな。