『はやとちり』の醍醐味のひとつは
『理想主義の理論なんてうるさい』
VS
『現実主義者にはわからないだろう』
の真正面対決ですかねやはり。
そもそもラブソングにサラリと「主義」という単語をぶち込んでくる時点で尋常ではないのだがその上理想主義と現実主義の対比を描くのだから確信犯というか慣れているというか兎に角まずは耳を引くよね。
これは、例えば近年で言えば『俺の彼女』のように一人称が移り変わってるとかではなさそうだ。というのも、『「勝てないような気がした オマエはいつも強いし泣かない」』のところに、ご覧のようにキッチリカギカッコが表記されているからだ。ここ以外の語り手は常に同じであるとみてよい。
一応これは失恋の歌である。『ちょっと歩幅が合わなかっただけ』って歌ってるのでどっちから切り出したかは定かじゃないんだけど。冒頭の『消えないから「事実」』や理想主義直前の『事態を理解してしまった時に』における「事実」や「事態」というのは恋から醒めた状態を言っている。現実を見ろってね。
一方で『夢から醒めた後また眠りたいよ』の一節が対比としてある訳だがここは解釈の余地がある。「恋をしている時は夢見心地」ということで、一度失恋してもまた恋をしたいと思う心を歌っているともとれるし、また、ひとつ恋が終わった後は疲れているからもうちょっと休ませて、という風にもとれる。恐らく前者がオーソドックスな解釈だろうが後者も捨て難い。それに理想主義と現実主義の対比からすれば「また恋をしたい」気持ちと「もう恋はたくさん」という気持ちが鬩ぎ合ってる方が面白いしね。
とはいえ、歌としての最後の結論が「今はバイバイ」である事を考えると、なんかちょっと疲れてたのかなこの時は、と思ってしまうところもあったり。曲全体がアンニュイで気だるげなのも、そういう気分が背景にあるからかもしれないねぇ。いずれにせよ他にはない稀有な曲調ですよ。これっきりだわ。