『はやとちり』が好きな人に『HAYATOCHI-REMIX』が不評気味なのは、前述のようにビートが強めになることでオリジナルのアンニュイな雰囲気がやや薄れている点と、もうひとつ、“歌詞が減った”点が大きかったのではないかと思われる。勿論、オリジナルもリミックスもどっちも好きという人も多いんだけどね。
『はやとちり』にあって『HAYATOCHI-REMIX』にない歌詞は次の二箇所だ。
まず一箇所目。『はやとちり』でいえば一番のサビ『〜なだけでは嫌われちゃうよ?』のすぐあと、二番のAメロにあたる部分だ。
『カラカラになった太陽は
毎日雨を望んでいるのかも
そう考えれば降られた気分だって
悪くないんじゃないかな』
次に二箇所目。これは三番のサビが終わった後。エンディングだね。Dメロとでも呼べばいいかな。
『随分話が違うじゃないかい
今すぐ厭なら明日にバイバイ
That's the way it is.
いつまで待っても損なだけなら
出直してくるよ 今はバイバイ
That's the way it is.』
エンディングを省くのはまだわかる。メロディとしてもDメロは独自だし歌詞も後日譚的だ。『Passion』なんかも『- single version -』のみエンディングが足されていたりしたしな。しかし、2番のAメロをまるごと削るのはかなり大胆だ。特にここのパートはヒカルらしい「新しい太陽と雨の関係」を歌う重要なパートだし、何より『悪くないんじゃないかな』の『かな』の歌い方がなんというかリスナーの痒い所に手が届くというか聴いた瞬間見悶えるというか兎に角この曲随一のハイライトのひとつなのでここを省くだなんて全く以てけしからん!と思ってしまうのも無理はない。あと、歌詞カードを読む前に耳で『降られた気分だって〜』の所を聴いた人は、ここの場所を「フラれた気分だって悪くないんじゃないかな」という風に受け取ってヒカルに失恋の痛手を微笑みで慰めて貰ってるような心持ちになれたりもするのでますますこのパートは外せないのだ。ここを欠く『HAYATOCHI-REMIX』を物足りないと思ってもこれはもう致し方なかろう。
ただ、冷静に歌詞を眺めると、このパートなくても確かに歌詞はまとまってるんだよね。寧ろここだけ少し異色に差し挟まれている感じすらある。先に『HAYATOCHI-REMIX』を聴いた人の方がすんなり歌詞を受け取れる気もしたりもする。実際に聴き比べてみてくれればわかると思う。
やっぱり、順番だよねぇ。これ、もし先に『HAYATOCHI-REMIX』が発表されて、その後に『はやとちり』だったら全然違った印象になってたかもね。2番にAメロが足されて、エンディングまでついちゃって。シェイクスピアだって驚きの展開、That's the way life is、だったんじゃないかなー。もしかしたら『DISTANCE』と『FINAL DISTANCE』みたいな関係になってたかもな。
リミックスが先に出るだなんて不自然に思われるかもしれないが、我々は『Flavor Of Life』で先にリアレンジたる『Ballad Version』を聴いて後からオリジナルを聴く、という順序を経験していたりもするのですよ。これも稀有だよね。いやはや、宇多田ヒカルの別バージョンに纏わるあれやこれやというのは考えを巡らし甲斐があるというものですな、ハイ。