『Time』でキーワードとなる歌詞といえば『時を戻す呪文』だが、『戻す』で思い出す他の歌といえばまず『Goodbye Happiness』かな。正確には『戻る』だけど。他動詞と自動詞。
『Goodbye Happiness』では以下のように『戻る』が出てくる。
1番サビ:
『So goodbye happiness
何も知らずにはしゃいでた
あの頃へはもう戻れないね
それでもいいの Love me』
2番サビ:
『So goodbye innocence
何も知らずにはしゃいでた
あの頃へはもう戻れないね
君のせいだよ Kiss me』
3番サビ:
『So goodbye happiness
何も知らずにはしゃいでた
あの頃へ戻りたいね baby
そしてもう一度 Kiss me』
となっている。
1番と2番では『戻れない』、3番では『戻りたい』になってるのがこの構成のいい所。だが、この歌が最も“違う”所は、『戻りたい』と言ってすかさず『そしてもう一度Kiss me』と歌う所だった訳だ。ノスタルジックに「昔は良かった。あの頃に戻りたい。」と述懐するに留まらず、敢えて戻ったとしても結局今と同じ道を選ぶよと言っている。ここが違う。圧倒的な現状肯定が郷愁を優しく包み込むのだ。なんて名曲…。それはさておき。
この歌では、『あの頃へは戻れない』という状態において、その原因は『君のせいだ』と言い放ち、その上で『それでもいい』と現状肯定の価値判断を行って今何をするかといえば『Kiss me』、「私にキスして」というお願いである。
その上で更に、『あの頃へ戻りたい』と願望を口にし、そして、本当は戻れないけどもし仮に戻れたとしたらどうするかといえば結局同じく『Kiss me』、「私にキスして」なのだった。
『あの頃へは戻れない』のは『君のせいだ』と言ってキスをねだるのだから、ある意味、『Kiss me』は「あの頃へ戻れなくなる象徴となる行為」でもある。俗っぽく言えば、キスすることで『goodbye innocence』、無垢にさよならする、ってことだね。大人になると言ってもいいかな。本当、俗っぽいけど。
この、「あの頃へ戻れなくなるkiss」が、『Time』の『時を戻す呪文』と対になっているように思える…と指摘するのは飛躍し過ぎだろうか。もっと言えば、『時を戻す呪文』には「kissより前」に戻す力があるからこそ、『Time』でわざわざ『キスとその少し先までいったこともあったけど』という、そこまでの流れからするとかなり唐突な生々しさを伴うフレーズが差し挟まれているのではないだろうか。ヒカルからすれば、『Goodbye Happiness』で歌った事を念頭に置けば、『Time』のどこかに『Kiss』を入れなくてはならなかったのではないかなと愚考する訳である。歌詞を見るとカタカナの『キス』だけどね。
となると、『kiss me』と対になる『時を戻す呪文』とは具体的には何なのか?という常なる疑問がぶり返してくる訳だが、はてさてそこから先は私いつ書けるやらサッパリわからないので差程期待せずにお待ちうただければ幸いかなと存じ上げます。