『One Last Kiss』の中毒症状が凄まじい。何度も繰り返し聴くのは勿論、いつもなら殆ど観返さないミュージック・ビデオを毎日鑑賞中。そして驚異的なのは聴いてもいない観てもいない時間なんだよね。気がついたら『One Last Kiss』が脳内で鳴っている! 少しでも油断すると『oh oh oh oh oh』って歌ってる! この、「聴いてない時の脳内ヘヴィローテーション」率は過去最高じゃなかろうか。こんなに生活が蝕まれていいのでしょうか。いいんです。望むところなのです。
その中毒症状の強さについては、編曲面からそれが自覚的なものであることがわかる。前に述べた通り、『One Last Kiss』は4分余りの楽曲でありながらブレイクが2回入るのが特徴だ。そして、この曲は、一回目のブレイクの前後でアレンジの方向性がガラリと変わる。急旋回と言っていい。その急旋回後のアレンジが、如何にも中毒症状促進効果増強狙いなのだよな。
一回目のブレイク、
『もう分かっているよ
この世の終わりでも
年をとっても
忘れられない人』
の直前までのアレンジは、こう言ってはなんだが至って普通の楽曲だ。Aメロ〜Bメロ〜サビを二回繰り返す構成。ここでCメロをぶっ込んでからもう一度元のメロディに戻っていくのがオーソドックスな方法なのだが、『One Last Kiss』はここからが違う。
『Oh oh oh oh oh』
『忘れられない人』
『I love you more than you'll ever know』
この3つのフレーズを手を替え品を替えひたすら繰り返して続けるのだ。この思い切った構成は今迄になかった。まさに中毒症状促進編成。
こう考えたい。この一回目のブレイクの後、楽曲の後半は、そこまでのオーソドックスな前半部分のリミックスになっていると言えるのではないだろうか。ヒカルの今までの楽曲でいえば、例えば『traveling(Bahiatronic Mix)』なんかは冒頭からあの印象的なコーラス部分を繰り返していたが、ああいう感覚だ。
これも恐らくだが、『One Last Kiss』って前半がヒカル主導によるプロデュースで、後半がA.G.Cook(アレクサンダー・ガイ・クック)主導によるプロデュースなのではないだろうか。今迄も共同プロデュースというのは幾つもあったが、楽曲の前半分と後ろ半分をそれぞれが受け持ってそれをそのまま繋げてしまったのではないか?という前代未聞の推測である。いわば、オリジナル・ヴァージョンとリミックス・ヴァージョンのキメラを初手でリリースしてしまったようなものなのではないか、という事だ。勿論こちらの勝手な妄想なのだが、そう考えるとこの急旋回展開が腑に落ちる。
現在『One Last Kiss』はEPにおいては『Beautiful World (Da Capo Version)』とクロスフェイド的に繋がったマスタリングとなっているが、これをオリジナルアルバムに収録する際に果たしてどこまで変えてくるかも楽しみだ。前半のオーソドックスを後半にまで拡げるか、或いは後半のリミックス的なパートを更にストレッチするか…色んな手が有り得るよね。てか、『One Last Kiss』のリミックス・シングルをアナログで出せばいい気もするな。同一楽曲でアナログが二回リリースされたらヒカル史上初めてになるかな。更に妄想が拡がるぜ。
ともあれ、『One Last Kiss』はわずか4分余りで「一粒で二度美味しい」構成になっている。前半と後半でのサウンドの変貌ぶりに注目して聴いてみるときっと楽しいと思います。もっと細かい分析はまたの機会かな。