無意識日記々

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『oh・oh ・oh・oh ・oh・ou・oh!』

『One Last Kiss』フルコーラス第一印象は「とにかく楽しい」の一言に尽きる。予め105秒知っていたとはいえ、それでもシンエヴァのエンドロールが流れる中あたしゃ映画館でひとりひたすらノリノリだった。勿論周りはそんなことなかったが。

このフィーリングは、それこそラスキスのミュージック・ビデオでヒカルが終始リズムにノっている事からも伝わるかと思う。『Laughter In The Dark Tour 2018』ではドレス姿で熱唱する姿がアダルトで、宇多田ヒカルも大人びて落ち着いた芸風になったんだなと思った人も多かったかもしれない。Netflixでずっと観られてるし。

しかしここに来て『One Last Kiss』であの往年の(例えば『traveling』のような)“リズム・マジック”を取り戻したように思う。昨年の『Time』に既にその兆候は現れていたが、ここで更にアクセルを踏んできた感じ。いや勿論ダンサブルなアップテンポ・チューンということで『道』の存在を忘れる訳にはいかないのだが、同曲はどうしてもお母さんへの思いが溢れまくっていてそのエモーションが楽曲全体の印象として支配的だった。『One Last Kiss』はもっとシンプルに、楽しい。

歌詞の面ではシンエヴァの内容をバッチリ踏襲しているのだが、どこか達観しているというか、“振り返ってる”感が強い。『誰にも言わない』では『一人で生きるより永久に傷つきたい』だったが、『One Last Kiss』では『誰かを求めることは即ち傷つくことだった』と過去形になっている。気づきを踏まえて達観した“今”にフォーカスが当たっている。

リズムが強い。なんだろうな、『Beautiful World』もそうだったが、小室哲哉が確立した16ビート&日本語歌詞の楽曲の王道を貫いているようにみえる。アタックが強く、狭い音域をグルグル回りながらグルーヴを醸成していくAメロから一転メロウでメロディアスなBメロへ、そしてサビのキャッチーなリフレインが繰り返されるコーラスへの流れは往年のTM NETWORK小室哲哉のソロ曲を思い起こさせる。しかしサウンドは2021年仕様にアップデートされていて古臭さとは無縁だ。

思い切ってるよね、サビが『oh oh oh oh oh !』なんですよ。歌詞も載せへんのかい。徹底してリズムの為のヴォーカル・ラインをリフレインに持ってくる。ここらへんがこの曲の「楽しさ」「生理的快感」の根元になっている。

そして、そういったプリミティブな快楽感を持ちながらも曲構成かドラマティックで知的な所が『One Last Kiss』の大きな特徴だ。『Time』の構成も凝っていたし『誰にも言わない』は最早芸術だったが、『One Last Kiss』では「生理的快感を損なわずに如何に曲の大きな流れの中に聴き手を導いて遠くまで運んでいくのか」がテーマになって編曲が為されているように思われる。そこらへんの話からまた次回。