無意識日記々

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『BADモード』で取り上げられなかったテーマ

akiさん(ライターの内田暁氏)の書いてくれた記事が毎度の通り秀逸だ。

大坂なおみに飛んだ「ヤジ」を考える。彼女が流した涙は「メンタルの弱さ」だけで片づけてはならない》

https://sportiva.shueisha.co.jp/smart/clm/otherballgame/tennis/2022/03/14/post_9/index.php

いつも「痒いところに手が届く」というか、こちらが知りたいと思う事を的確に捉えてきっちり取材をした上で書いてくれ、更にこちらが更にそこから知りたいと思うか思わないかのモヤモヤゾーンまで先回りして文章を構成してくれているような。一味違うのよね。

記事の内容は、大坂なおみが試合中に観客から暴言を浴びせられた件についてだ。あんな普段はおっとりしてそうな彼女が依然人種差別の標的にされている現実にウンザリする。

で。今回この記事を枕として取り上げたのは他でもない。どこかで触れようと思っていた「『BADモード』で歌詞のテーマとして“取り上げられていない”テーマ」について、だ。それが、そう、人種差別についてのイシューである。

アルバム『BADモード』では、例えばノンバイナリの話題が様々な側面からフィーチャーされる結果となっている。他にも、毎度言っているように、『キレイな人』はウーマンリブフェミニズムの伝統を感じさせてくれる。『気分じゃないの(Not In The Mood)』では、はからずも貧富の格差について描写することになった。パンデミックに伴う閉塞感も、歌詞全体を覆っているように思う。いつもの通り、輪廻転生や孤独や自立心についても歌っている。こういった多彩かつ同時代性の強い歌詞の数々の中で、しかし、人種問題を思わせる歌はない。

そんなの今までも無かったじゃん、と言われそう。確かに、大方はそうだったのだが、UTADAの1stアルバム『EXODUS』ではメインテーマのひとつだったのだ。人種。

そもそも1stシングルの『Easy Breezy』で『I'm Japaneasy~♪』と歌っているところからして自虐的人種問題提起だし、『The Workout』には『Dirty Blonde Texan』なんかが出てくるし、『Let Me Give You My Love』に至っては曲全体の歌詞のテーマが「人種の坩堝」である。かなり人種問題に踏み込んだ1枚だった。

今回の『BADモード』はエレクトロニックサウンドへの回帰ということで自然とその『EXODUS』を想起する人が多かったし、LSAS2022で未完成の新曲の枠を埋めるために採用された2曲が何れも『EXODUS』収録曲だった。今回、『EXODUS』を連想させる力は強い。

何より、ヒカル自身が人種差別問題については強い関心を寄せてきている。Black Lives Matterについても発言していた。このタイミングで歌詞のテーマに取り上げてきたとしても何ら不思議ではなかった。

勿論、取り上げていない事について理由など無いのかもしれない。やる理由はあってもやらない理由はない。何故あなたは今日クリケットに興じなかったのか?といきなり問われても困るのだ。(なんだそりゃ)

だが、やはりなんとなく気になっていはする。もしかしたら、それこそ大坂なおみのように、ヒカルに対して何か現在進行形でそういう問題が発生していて、なかなか歌詞に出来ない、などという事態があるのかもしれない。ヒカルにそんな事があるとしたら激昂モノだが、万一それが家族にも…いやいや、過ぎた妄想は止めておこうか。そういう想定だけでも、自分で書いていてかなり嫌な気分になってくるしな。この件に関しては、『BADモード』期間中は封印しておくことにするよ。