無意識日記々

mirroring of http://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary

I, you & they.

歌詞の解釈ってリスナー次第な比重が結構大きくってな。

例えば『BADモード』の1番、

『いつも優しくていい子な君が

 調子悪そうにしているなんて

 いったいどうしてだ 神様

 そりゃないぜ

 そっと見守ろうか?

 傷つけてしまわないか?

 わかんないけど

 君のこと絶対守りたい

 絶好調でも BADモードでも

 君に会いたい…』

という歌詞。これをヒカルに歌われた時、リスナーであるあなたはどこに自分を位置づけているだろうか? 前に「『君のこと絶対守りたい』とHikkiに歌われて女子狂喜乱舞」的なことを書いたが、これはあなたが歌詞の中の『君』の立場に立ってヒカルが話し掛けてきてくれてるのを受け取る構図になっている。ヒカルと面と向き合ってる感じだね。

一方、『いつも優しくていい子な君が 調子悪そうにしているなんて』と歌われて、「そうそう、自分の周りにもそういう子が居るよ」なんて風に思った場合、これはあなたがヒカルと同じ立場に立っている事を意味する。『君のこと絶対守りたい』と歌われて「俺も守りたいわその子のこと」と共感する感じ。これもある。

更に、そんなやりとりをしている『君』と『僕』を第三者の立場から眺めて歌詞を聴くことも可能だ。「宇多田ヒカルが親しい子を慰め励ましている。これはなんとも美しい絵であることよ。」と詠嘆に暮れるあなた。百合男子的に言えば「壁になりたい」「観葉植物になりたい」といった趣だね☆

当たり前だが、どれが正解という訳でも無い。いや、確かに、『そっと見守ろうか? 傷つけてしまわないか?』といった『僕』の『自問自答』の数々は『君』に直接話して聞かせている台詞ではない(一方で『メール無視してネトフリでも観てパジャマのままでウーバーイーツでなんか頼んでお風呂一緒に入ろうか』なんかは『僕』が『君』に直接話し掛けてる台詞に成り得る)から、それを『君』たるリスナーが斯様に聞かされているのはおかしい、みたいな指摘もあるかもしれない。でも、これも例えば『僕』の独り言を隠し撮りしたビデオを『君』が見せて貰ってる、なんていう解釈も可能だ。それでも『絶対守りたい』と言われたら「キャーッ!」ってなるですよ。結構何とかなるものなのだ。

そんなだから、歌詞なんでなそれぞれが好きに聴いて楽しんでくれればいいのだけど、反対に歌詞の書き手としては、これはなかなかどうにもしようのない事態なのだ。リスナーが『僕』の立場に立とうと『君』の立場に立とうと『君』と『僕』の両方を見守る立場になろうとそれは完全にリスナーの自由なのだから。こちらの意図を正確に伝えたいと思っても限度がある。

そして、それはある意味でリスナーがその体質毎に分かれるという事も示す。ヒカルパイセンが『BADモード』で歌って踊る姿を観てどうドキドキするかは、それぞれの人生経験や感性以前に、「リスナーが自身をどこに置いて歌詞を聴くか」という、たった今選択可能な要素に大きく左右される。その事自体をよくよく自覚しておくことが、様々な体質のファンが渾然一体となっている現況に対してよりよい接し方を齎すことになるのではないかなぁと思うのでありました。