無意識日記々

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下に履く 布影揺らすは 歌の拍

「ライブ・エール」で驚かされたのが、事前に発表になったアーティスト写真がささやかではあるが小さな“仕掛け”になっていた事だ。まさかあんなアーティスティックな上半身にシースルーの下半身だなんてな…!

いやね、奇妙だなとは思っていたのよ。他のアーティストは知らないが、ヒカルがNHKの番組に出る時に宣材写真みたいなのを事前に公開したことはなかったから。まさか衣裳をサプライズにしてくるとはね。思ってもみなかった。

実際、当日放送中のTwitterタイムラインを遡ったら7割くらいが「足」の呟きだった。それはお前がフォローしてる人たちがそうだからだろうと言われそうだし実際そのせいなのだが、兎に角そういう私のようなどうしようもない連中(笑)にとっては物凄いインパクトであった事が窺える。アー写先出し作戦は見事に功を奏したのだった。

しかし改めてヒカルのこのテイクでのパフォーマンスを観てみると、この衣裳、別にそういうインパクトを与える為だけに誂えられたギミックなだけではなく、結構考え抜いた末のものだったのではと合点が行き始めたのですよ、えぇ。

『BADモード』でのヒカルの左手パフォーマンスの魅力については前にも語った通りだ。『Won't you lean on me ?』─「私に頼ってみたらいいじゃん?」のところで自分の胸を指先で叩くときの頼もしさと愛おしさといったらない。『However night flows』で手をヒラヒラさせて夜が更けていく光の流れの明滅とキラキラを表現してみせる所も可愛いし、『二度とあんな思いはしないと』の時に強く否定する仕草は思いの強さをダイレクトに伝えてくれる。『I'm bad at explaining』─「私ちょっと説明下手だから」で(ちょっと遠目でわかりにくいが)左手を裏返すのも照れ隠しな感じもしてお茶目だ。このような左手を中心とした上半身の仕草や振る舞いや顔の表情というのは、『BADモード』という楽曲の歌詞の世界を表現する為に機能している訳である。トップスがアーティスティックで意味性が強そうなのも、上半身の動きがメッセージ性を強調しているからなのだ。

翻って、ではこの曲でのヒカルの腰から下、下半身はどうしているのか。これは見ればわかるが、徹底的にリズムを取り続けている。この『BADモード』という楽曲は非常にリズムに起伏のある構成になっていて、ギターのカッティングの多寡をメインにして峠を縦走していくようなハイテンションな起伏を維持し続けている訳だが、そのダッシュから休憩、休憩からダッシュみたいな展開から全く遅れをとることなくヒカルの足は正確なリズムを刻み続け、その心地好いグルーヴに身を揺らしていく。

これ、片方だけだったらまだわかるんだけど、当たり前だがヒカルさん、この上半身と下半身、同時に動かしてるんですよ。歌詞のメッセージ性を上半身で伝えて、楽曲のリズムの起伏とグルーヴを下半身で伝え続けてくれているのだこの約5分間。それはまるで、上下で別々の生き物が独立して動き回っているかのようで。

ミュージシャンやダンサーなら幼稚園児でも出来るようなことなのかもしれないが、そういうスキルのないこちらからすればよく脳が混乱しないなぁと思うよ。

その別々っぷりを、今回のヒカルの衣裳は見事に表現してくれている。トップスがアートの色の濃さでメッセージを打ち出し、ボトムスが妖艶に揺れるヴェールの向こうに仄窺える肢体をエレガントに映し出していく。その対比の鮮やかさたるや筆舌に尽くせぬわ。

もしそこまで考えられた衣裳だったのだとしたら、いやはや今のヒカルさん、自身のあらゆる側面を表現者としての演出に使えてしまえてるってこと? そのうちInstagramの投稿とかも何かの伏線にしていくのかもしれませんねぇ。別に警戒とかはしなくていいと思うけど、何気ないアウトプットであっても何か違和感を感じたときは、ちょっと暫く心に留め置いておいた方がいいのかもしれないね。果たして「SONGS OF TOKYO」では、どーなんでしょーかねっ!?