無意識日記々

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左掌陰陽図(ひだりてのひらおんみょうず)

「ライブ・エール」でのヒカルの"振付"には見所が幾つかある。"me"のところで何度も左手の指先で軽く左胸を叩くのは何度見てもいいものだ。「人に頼っていいんだよ。」っていう歌前のメッセージの前フリがとても効いている。そして最後に『Won't you lean on me when you need something to lean on?』の『something』のところで左胸を叩くところが今曲のハイライト。これ、英語の語順だからいいのよね。日本語だと「私を頼ったらどう? あなたが何かに頼りたくなったらさ。」っていう感じ。「困った時は私を選べ」っていうアピールなのよね。「頼ってくれて全然構わないよ」より更に積極的な「あなたの役に立たせて!」っていう気持ちが、『something to lean on』のところの左胸ぽんぽんに表れている。よっぽど親友さんのこと好きなのねぇ。

『However the night flows』のところで左手をヒラヒラさせるのも優雅でようござんす。川の流れみたいなイメージなのね。時の流れと川の流れ、そして夜の流れ。ヒカルの中のイメージがよくよく伝わってくるたおやかさである。

そしあたしが注目したいのは「否定」のサインだ。「ない」だね。「ない」を記号化した数字「0(ゼロ)」は人類最大の発明発見といわれるが、その「否定(Not)」自体もまたそれに匹敵する、というかよく似た大事な概念だわね。これを身振り手振りで表現する時に人は掌を立てて横に振る。これは恐らく黒板消しを使うような漢字で"消す"動作なのだと思うが、ヒカルも『BADモード』で、例えば(遠目でわかりづらいが)『I can't let you go』の"can't"の部分で左手を横に振っているようにも見える…あぁ、いちばんわかりやすいのは、『二度とあんな思いはしないと祈るしかないか』の『しないと』だな。ちょうどアップになって「否定」の身振りをしているね。これですよ、これ。

この「否定」と、『絶好調でもBADモードでも』のときに掌をくるっと返して外側に向けて"good"と"bad"を対比させてるのって、繋がってると思うのよね。かたや「消す」仕草、かたや「裏返す」仕草。凄く近い。

で、さっきたおやかと表現した『However the night flows』での左手ヒラヒラ。あれってつまり、なぜヒラヒラさせるかっていうと、水面が波打って光と影が入れ替わるからなのよね。チラチラキラキラと。波ってのは山と谷、光と影で出来てるんだから。

つまり、この『BADモード』でヒカルの左手が動くのは、対になったものを表現しようとした時なのだ。肯定と否定、好調と不調、そして光と影。そうやっ対比されるものが時により入れ替わっても、でもどんな時も変わらず私がいるのよ、ということで最終的にヒカルが自分の左胸を叩くよね。それは、あなたの人生に影が落ちたとしても「私があなたの光になるから」っていう、いつも通りのメッセージに落ち着く訳だな。うまく出来てら。

ほんに優しい"振付"の数々だけど、こういう風にヒカルの中で統一されたイメージがちゃんとある訳だ。優しいだけでなくとても知的なヒカルさんなのでした。