話が前後してしまったが、そうなのだ、今回の『First Love/初恋』EPは7インチアナログ盤2枚組だけでなく、当然配信もあるですよ。
「 (前略)そんな彼女にとってデビュー24周年となる記念日(12月9日)にドルビーアトモス版「First Love(2022 Mix)」「初恋」の配信、ならびに「初恋(2022 Remastering)」の配信、そして「First Love(2022 Mix)」と「初恋(2022 Remastering)」の2曲を収録した7インチアナログ盤「First Love/初恋」の限定発売が決定した。(後略)」
https://www.utadahikaru.jp/news/detail.html?id=545422
とのことで、どうやら(ひとまずは)アカペラ・ミックスの配信は無いようだ。アナログ盤のみですね。『First Love』の新しいミックスと『初恋』のリマスタリングの2つの音源が配信されると。一方で、その普通の配信だけでなく、“ドルビー・アトモス版”でもその2曲が配信されると。
これを読んで私は「え?」となった。というのも、ドルビー・アトモスって、それが何のことだかは後述するとして、基本的に現在Apple Musicが推進している規格だからだ。
ヒカルは、御存知のように、配信ではSpotifyに重きを置いている。『Liner Voice +』も『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー-Live at Sea Paradise - 』もSpotifyの独占配信だ。何故こう偏るかといえば、所属レコード会社がSONYで、そのSONYがSpotifyと提携しているからなのでした。
で。その親会社(と言うのかどうかは知らんが)であるSONYが推進している空間オーディオの規格は、ドルビー・アトモスではなく「360R」(360 Reality Audio/サンロクマル・リアリティ・オーディオ)の方。昭和の人間であれば、ビデオテープの規格でベータとVHSがあったのを御存知ですよね。あんな感じに、Apple とSONYは「空間オーディオ」の規格で現在競合しているのです。
「空間オーディオ」の説明も少し。普通のオーディオは大抵「ステレオ」で、スピーカーが左右に2つあって、これを聴けば左右に音が拡がっている感じがする。一方「空間オーディオ」は、左右だけでなく前後上下からも音が聞こえてくるように作られた規格だ。その為本来なら7.1chという8つのスピーカーを使って四方八方から鳴らされる音源を体験することを指していたのだが、最近はイヤホンでもそういった空間的なサウンドが(擬似的にではあるが)体験できるようになってきている。
で、その新しい技術である「空間オーディオ」のやり方、規格として現在Appleの「ドルビー・アトモス」とSONYの「360R」が競い合ってる、とそういう話なのよね。
この状況下でSONY所属である宇多田ヒカルがAppleの「ドルビー・アトモス」でサブスク配信するとすれば「敵に塩を送る」行為と見做されかねない。いったいどういうことだろう?
その昔ヒカルは家電メーカー東芝を親会社として持つEMIに所属しながらライバルであるSONYの商品(MD)のCMに出演するというなかなかの離れ業を繰り出した事があったが、今回もそういうアクロバティックな事態になっているのだろうか?
或いは、「ドルビー・アトモス」の規格が、Apple以外で採用され、その第一弾アーティストとして宇多田ヒカルが選ばれたというセンも有り得る。ハイレゾ黎明期、アルバム『First Love』は挙って好事家に求められた。その再現となるのか。
とはいえ、そんなことを新たに仕掛けるサブスク配信プラットフォームってあるかなぁ? YouTube?Amazon? よもやSpotify? なかなかに、わからない。さてどうなんでしょうね?
ひとつ現時点で注意しておいて欲しいのは、仮に『First Love』と『初恋』のドルビー・アトモス版がApple Musicのみの配信だった場合、同サービスに有料で入らないと音源が一切聴けない、ということだ。YouTubeやSpotifyのような無料サービスが皆無なんだよApple Musicって。なので、12月9日にすぐ聴きたいという人は事前にApple Musicに入っておいた方が無難だろう(AirPodsとかも買ってね)。そこまで焦らないという人は、まず配信が始まってからどこのサービスが利用できるかを確認してから購入や加入をする流れになるかな。空間オーディオに対する興味と関心次第でそこらへんは変わるかなと思います。