今回は、気を取り直して『何色でもない花』の曲構成の話を再び。例の曲構成回の日記を逐一参照しながら読んでうただければ。
【新曲発売時恒例曲構成確認回@AFoNoCo】
https://blog.goo.ne.jp/unconsciousnessdiary/e/25a647dd7d3ef9ad31cee4168b38bfb5
で。再三になるがヒカルのコメントを掲載しよう。
『こんなの初めてなんですけど、8分の6拍子と、4分の4拍子と、また8分の6拍子っていう、なんか謎のタイム・シグネチャーの三部構成になってるんで』
このヒカルの言に沿ってみたとき、「一旦4分の4拍子になったあとまた8分の6拍子に“帰ってくる”」と解釈するのが普通だろう。同じリズムに戻るんだものね。
ところが、よくよく音を聴いてみると事はそう単純ではないらしい。
初めの方の8分の6拍子は、前に指摘した通り、ピアノの音6つに対してルート音(ポーンと弾かれる長い音)1つとなっていて、これだとどちらかというと2拍子で解釈する方がメロディーに合いやすい。左右にゆっくり身体を揺らすような、そんなイメージを抱いていただければいいかな。左と右の二つの間を揺れる2拍子。
これがあるから、真ん中で4分の4拍子に移る時の唐突感が薄れる。2拍子から4拍子に移るのは、3拍子から4拍子に移るよりスムーズにできるからね。
が、今度その4拍子から8分の6拍子に戻る時─具体的には
┏ だけど
D 自分を信じられなきゃ
┠ 何も信じらんない
┗ (2:54~3:08/4分の4拍子)
の部分から後だ─、ここでバックの演奏を聴いてみると、右側で3つリズムを刻む度に真ん中でスネアドラムが1回叩かれている事に気づく。つまり、この3:08からあとの8分の6拍子は3拍子として提示されているのだ。(タン・タン・タン、ドン・タン・タン)
なので、確かに楽譜上では
「8分の6拍子→4分の4拍子→8分の6拍子」
という風に書かれているだろうが、演奏の解釈としては
「2拍子→4拍子→3拍子」
という、それぞれに異なるリズムでの三部構成になっていると考えられる。
この含みのあるやり方な。確かに、3:08以降のパートは最初の2分余りの2拍子のパートに現れるのと同じ歌詞になってはいる─
┏ In it with you
C'In it with you
┗ (3:08~3:28/8分の6拍子)
┏ I'm In love with you
┠ In it with you
┠ In it with you
C In love with you
┠ In it with you
┠ In it with you
┗ (3:28~3:49/8分の6拍子)
─のだが、歌い方が、いや、声そのものが別物に加工されている事に気づくだろう。つまり、最初のパートと最後のパートでこの歌のメインフレーズである
『 I’m in love with you 』
の意味合いが変化していると、そう編曲面とサウンド面で語り掛けてきてくれているのだ。
どこがどう違うのか、という話になるとこれはどうしても「ドラマを最後まで見てから」でないと解釈しきれない気がするのでそれについてはまた機会を改めてとなるのだけれど、たった4分ちょっとの曲中で2回リズムチェンジさせながらこんな解釈の幅を持たせてくるなんて、ちょっと宇多田さん尋常無さ過ぎじゃございませんこと?