無意識日記々

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『SCIENCE FICTION 2024 PROJECT』としてのリデザイン


宇多田ヒカルが新曲をリリースしたとなると毎回その日は10回くらいリピートしてしまうのが常なんだけど、今回の『Electricity』は全くヘビロテしていない。理由は単純で、アルバム全体が聴きた過ぎて一曲だけに時間を割く気にならないのだ。お陰で今の私にとって『Electricity』は、「宇多田ヒカルのニューアルバムのラス前曲」みたいな認識になっている。『Another Chance』とか『夕凪』みたいなもんだわね。


それくらい、全体が充実している。最初ベストアルバムをリリースすると聞いた時には全く予想していなかった事態だ。情報量が多過ぎてまるっきり消化出来ていない。あれだわ、自分の中でのキャッチコピーが、今まで散々書いてきた「宇多田ヒカル初のベスト・アルバム」から「宇多田ヒカル初の2枚組アルバム」に切り替わっとるわ(※ 勿論、本当はSC2の方が初ですよ)。嗚呼、ビートルズホワイトアルバムをリリースした時のファンとリスナーの気持ちってこんなだったのかしら。いや、あの凸凹な作品より遥かに押し並べて高品質だな。20世紀最大の音楽グループを袖にしたくなるほどのクオリティに、ちょっとまだ脳が追いついていない。


最初に曲順をみたときの「なんだこのチグハグさは!」という印象もまた、雲散霧消している。『Can You Keep A Secret?』のエンディングがあんなことになっているとは! 『光(Re-Recording)』があんな生まれ変わり方をしているとは! もう驚きの連続で、その数々のリアレンジも考慮に入れた曲順の妙に唸らされてばかりなのである。


そうなのだ、この、曲順や曲の終わり方と繋がり方などにも滲み出ている「全体を通してのトータル性」という点でも、この『SCIENCE FICTION』は過去最高の出来なのではないか?と思わせる。ヒカルはいつも「一曲入魂」で、アルバムというのは「出さなきゃいけない」から作ってきただけだ。なので、一曲毎の個性を最優先している為、アルバムにトータルコンセプトを付与する事はなかなか出来ない。作り終わって振り返って、「嗚呼、『Fantôme』は母への鎮魂と性と死のアルバムだな」とか、『BADモード』は周りの人も自分自身も励ます作品だな」とかいうのが“後から視えてくる”ものだった。


しかし、『SCIENCE FICTION』は「2024年の今、宇多田ヒカルのベストアルバムを作る」というコンセプトがハッキリしている。つまり、過去の楽曲/トラックたちを、最新のサウンド・クオリティを取り入れつつヒカルの最近の作風に合わせてリレコーディング/リミックス/リマスターをする、という軸でほぼ総ての楽曲がブラッシュアップされているのだ。こういう作り方は、ある意味今までになかったものだとも言える。


故に全曲聴き通した時の「全体としての充実感」は過去最高だ。普通のベスト・アルバムであれば、自分の昔の思い出と結びつけながら、「こんなに沢山の名曲を書いてきたんだねぇ」とかなんとか回顧的に捉えられるものなのだが、『SCIENCE FICTION』はたった今鳴ってる音が魅力的で、それが2時間26曲にわたってずーっと続く。統一感があるからこその、とんでもなく恐ろしいボリューム感である。


その観点からして(既にヒカル宛に140字で呟いてきたのだけど)、あたしゃこのアルバムのタイトルは「SCIENCE FICTION 2024」がより相応しかったんじゃないかと思い至った。


普通のベストアルバムであれば…例えばMr.Childrenのベストアルバムのタイトルは「Mr.Children 2011-2015」「Mr.Children 2015-2021 & NOW」とかだ。その曲がリリースされた年月日を並べて、今に至ってるよと。


しかし、『SCIENCE FICTION』は総ての楽曲が2024年仕様である。その深度はリレコーディング/リミックス/リマスターでそれぞれ異なるし、中には2023年の曲や2022年のミックスの曲もあるにはあるけれど、どれも概ね「今のヒカル」が手掛けたトラックとなっている為、「2024年の新しい体験」として提供されている。なのでこのアルバムのタイトルは、Mr.Childrenみたいに「SCIENCE FICTION 1998-2022 & NOW」なんかにするよりも思い切って「SCIENCE FICTION 2024」にしてしまう方がより相応しいように思うのだ。


そうなるとこのタイトルはそのまま『SCIENCE FICTION TOUR 2024』という今年のツアータイトルにもダイレクトに繋がっていく。実際に終えたコンサートの実況録音盤の事を普通は「ライブ盤」と呼ぶが、この『SCIENCE FICTION』アルバムは、今のヒカルがツアーでやるだろう曲を悉く今仕様に仕立て上げたいわば「ライブ予告盤」とでもいうべき非常に珍しい立ち位置の作品になる予感がしている。そのまんまということはないだろうが、過去曲のライブでのアレンジはこのアルバムのものをまず基準にとるだろうことが予想されるから。


なので、2022年に遂に待望のライブ・アルバム『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios 2022』をリリースして私を歓喜に咽ばせてくれたチーム宇多田の皆さん、今度は是非そのスタジオ・ライブ盤からもう一歩踏み込んで「ライブコンサートの2枚組実況盤」としてのライブ・アルバム『LIVE CONCERT- SCIENCE FICTION TOUR 2024』をリリースして欲しい。チケットが抽選なのだから尚更これは必要だ。そこまでやってやっとこの『SCIENCE FICTION 2024 PROJECT』は完成をみるだろう。ただのベストアルバムじゃないことは身に沁みてわかった! だから更にこれを推し進めて次のオリジナル・アルバムへと繋いでいくべきだと私は思うのでしたとさ。それはきっと『BADモード』よりも…嗚呼、身の毛もよだつな!