『SCIENCE FICTION TOUR 2024』、その一公演を観た際の非常に私的な印象だが、ライブ・アレンジが歌詞を余り重視してない傾向にあった気がする。
いちばんわかりやすいなと思ったのが『Keep Tryin'』で。最後の『少年はいつまでも〜』のパートに入った所から、オリジナルにはないリズム・パターンが取り入れられていて、これが如何にもカッコよかった。奇を衒わず、音楽的に非常に正鵠を射ていて素晴らしいなと思ったのだが、冷静に歌詞に耳を傾けるとこのパート、『お父さん、お母さん、お兄さん、車掌さん、お嫁さん』といった庶民の皆さんに宇多田ヒカルが寄り添って『Keep Tryin'』を連呼するのが主眼なのよね。特に『UTADA UNITED 2006』でのライブ・バージョンを観ると(観たことない人は今度Blu-rayが出るから買ってね(←ダイレクト・マーケティング))、ヒカルが身振り手振りを交えながら観客のみんなに語りかける目線で歌っている為、スタジオ・バージョンより更にアットホームで暖かい雰囲気になっている。言葉に込めたメッセージを重視した結果だったのだと思う。しかし今回のSFツアーバージョンではくだんの新しいリズムのお陰でやたらとカッコよく仕上がっており、ぶっちゃけ庶民に手の届かないスーパーヒーローから「みんなも頑張れよ!あばよっ!(と飛び去る)」って声をかけられたみたいな気分になった。いやまぁ憧れの人から励まされてそれはそれで嬉しいんだけど、18年前とは随分とニュアンスが変わったなぁと、そんな風に感じられた。
もう一つ例を挙げようか。『誰かの願いが叶うころ』は、3回目のサビからバンドが入ってきて後ろから雰囲気を重厚に盛り立ててくれた。これはSFツアー独自のアレンジだが、単純に、しっとりしたメロディを起伏のあるサウンドの中で濃淡を変えて味わえるという意味でロッカ・バラードの王道的編曲だったので、ライブ・コンサートらしい壮大なクライマックス(実際前半最後の曲だったしな)を迎えられてそれ自体は大変宜しかった。だがこのアレンジに沿うと歌詞の上では『みんなの願いは同時には叶わない』が「いちばん強いメッセージ」になるんですね。となると悲劇的な詠嘆が強調される。しかし、この歌は結局は最後の
『小さな地球が回るほど
優しさが身につくよ
もう一度あなたを抱きしめたい
できるだけそっと』
で表される切ない優しさこそが結論なんですよ。だからオリジナルでは殊更にその『みんなの願いは同時には叶わない』を演奏で強調しようとはしていない。寧ろエンディングを迎えるにあたって少し抑え気味にすらしている。ところが、SFツアーのアレンジだとこの肝心の“結論”が若干アウトロっぽい扱いになって、『同時には叶わない』の悲劇的詠嘆に比べて印象が薄くなってしまう。そうすると、オリジナルとは歌詞の流れとその意味合いが変わって響いてきて、いやまぁ同じ曲なのにこうも印象が変わるかと。
以上ひとまず二例を挙げたけど、今のところのシンプルな解釈としては、「今回ヒカルはオリジナルの歌詞に沿ったサウンドより、ライブ映えする音楽的な効果を重視してアレンジしたんだろうな」となる。それがひとまずライブを観た時の第一印象だったと、記しておくことに致しますわね。これがBlu-rayで観た時にどう感じるか、感想が変わるのか変わらないのか、今からちょっと楽しみな私なのでした。