無意識日記々

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話の順序

今朝の照實さんのツイートから。

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@u3music: 宇多田ヒカル・チームはいつも最高の音質で提供したいのです。teruzane RT @APPLAUSE1209 @jack_m_s ファンはヒカルさんの声さえ聴ければいいんです。高価なプラチナSHM/SHM-CD/やハイレゾ音源なぞ望んでおりません。スタッフさんは判っておられません

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ほほぉ、それでは私は宇多田ヒカルファンではないと言うのだろうか。だとすれば日本にあと何人ファンと呼べる人が居るのか訊いてみたいものだ―なんて揚げ足取りは置いといて。これはつまり「一般的な大多数のファンは」とか「ファン層の性質を考えると」と言った意味だろう。そのように言葉を補って捉えるならば、強ち的外れな指摘でもない。

それにしたって、直近の新曲が少なくとも35万ダウンロード以上を記録している歌手の商品で"15,000セット限定"を謳っているのだから、その"大多数のファン"よりも"コアでマニアックな宇多田ヒカルファン"を対象にしていて、商売として間違ってはいないのは明らかなんだが(販売数の多寡は兎も角)、問題の本質はそこではない。

いちばん重要なのは、質問者が物事の順序を取り違えている事だ。人は、必ずしも事前に、自分が何を与えられたら満足をするか知っている訳ではない。実際に与えられて初めて、自分がそれを欲していた事を知る、或いは、それが与えられた事で自分が満足する事を知るのである。現実にも、「私はあれが欲しい!」と情熱的になってそれに向かって努力をし、しかしいざそれを手に入れてみたら「そうでもなかった」と気付くケースがあるだろう。こういうのは、実際にやってみないとわからないのである。

今回の高音質プロジェクトもそうだ。今まで音質の良し悪しに無頓着だった人も、SHMやハイレゾを取り敢えずまず聴いてみる事で、初めてその価値を知る事になるかもしれない。物事の順序はそういうものだ。そして、宇多田ヒカルという人は今まで、そうやって「大多数の一般的なファン」に対して、“新しい扉”を開く役割を果たしてきた。

ヒカルがキッカケでDVDシングルを初めて手にした人も居るだろう。配信限定先行シングル欲しさにiTunesStoreを初めて利用した人、初めて着うたをダウンロードした人、CSに加入した人、オーディオシステムを一新した人、更には彼女の歌を聴きたくて初めてパスポートを取って海外に赴いた人、挙げ句の果てにはメッセ読みたさ&メール出したさの余りパソコン教室に通って生涯の伴侶を見つけた人まで居る。ヒカルは、そうやっていろんなファンに"今まで体験しようとしなかった/してなかった新しい価値"を我々に教えてくれる役割を果たしてきたのだ。話の順序が逆なのである。私だって今回その為に「ハイレゾってどんなだろう?」と興味を持ち対応プレーヤーを購入するに至ったのだ。彼女が価値を"先んじる"事には大きな意味がある。

いつも書いている事だが、彼女の音楽が十何年もR&Bと呼ばれ続けた理由、それは、殆どの人にとってR&Bという言葉を音楽を伴って知った初めての機会が宇多田ヒカルだったからだ。宇多田ヒカルの音楽がR&Bをやっている、というより、「宇多田ヒカルがやっている音楽をR&Bと呼ぶのだな」と解釈した人が大量に居たから、ヒカルの音楽性が本来のR&Bと呼ばれる音楽から離れてもそう呼ばれ続けたのだ。話の順序が逆なのである。宇多田ヒカルのファン層について考察するのなら、こういった現実についても、十分に考慮を払わねばならないだろう。