前回に引き続き、もう少しULTRA BLUEの楽曲の歌詞の連関について整理しておく。昔書いたからって省略してる事柄が多すぎでござった。そういうのもちゃんと網羅して辞書的に書き下さねばね。
This Is LoveはBLUEをはじめとしたブルーな楽曲群に対するまとめてアンサーソングだが、軸になっているのはWINGSである。
『じっと背中を見つめ抱きしめようか考える』『大胆なことは想像するだけ』のWINGSの主人公に対しThis Is Loveの主人公はもういきなり『後ろからそっと抱きつ』き『私からそっと抱いてみたの』とのたまう。大胆なことを実行に移してしまう奴なのだ。あっさりWINGSの主人公の願いを叶えてしまっている。なお、「そっと抱く」のは誰かの願いが叶うころの主人公の最後の願いだからそちらもThis Is Loveの主人公が回収している。なんともヒロイックな奴だ。
WINGSでは『素直な言葉はまたおあずけ』『昨日の言葉早く忘れて』『あなたの前で言いたいことを紙に書いて』とまぁどれだけ言いたい事を言わずに我慢しているのかという感じだが、This Is Loveではここでもあっさり『冷たい言葉と暖かいキスをあげるよ』と言葉を口に出してしまう。あげるだなんてなんつー上から目線な。
ここでのポイントは言葉が"冷たい"事だ。WINGSの主人公は明らかに逡巡している。こんな事を言ったら相手を傷つけやしないだろうか、怒りやしないだろうかとビクビク怯えている。だから、何ももう口に出せない。最後には口に出せないからって紙に書いてしまう。余談だが、この「言いたい事を紙に書く」というモチーフはBLUEにも出てくる。『原稿用紙5,6枚 ブルーのインクの調べ』の一節だ。歌の流れ上ここでただ紙に何かを書いたら楽譜を書いているように受け取られかねないのでハッキリと"原稿用紙"と言い切っている。だからブルーのインクのシラベが奏でるのは彼女の生身の言葉である。"調べ"が比喩である事を明示する為か、歌詞カードではカタカナになっていたかな。確認してみると宜しい。
話を戻そう。怯えているWINGSの主人公に対して、This Is Loveの主人公は大胆且つ厚かましいことこの上ない。相手が嫌がるような"冷たい"言葉も平気に口に出す。そして、それにもし怪訝な顔をされたとしても暖かいキスをあげるんだからいいじゃないのと開き直る。飴と鞭というか、どちらかというとツン&デレ@確信犯(誤用だ誤用だ)の方かもしれない。どこまでも自信満々である。
WINGSでは『安心できる暖かい場所』を求める主人公に対して、This Is Loveでは『不安と安らぎの冷たい枕と暖かいベッド』という風に、ここでも冷たさを受け入れる事を強調する。なお、ここで枕の方が冷たいのは頭寒足熱、冷たい枕に顔をうずめる瞬間って気持ちいいよねー!という作詞者の心の叫びが源泉にあると確信している。おやすみまくらさんである。
WINGSでは、安心とか暖かさを過剰に追い求めて主人公は言いたい事も言えず萎縮していた。This Is Loveは冷たさも暖かさも受け入れてこれが愛だと力強く言い切る。
WINGSでは、その、刺激から逃げようとする、何かを痛烈に感じる事自体から逃げようとする態度を『お風呂の温度はぬるめ』という比喩で表現する。この、熱くも冷たくもないどっちつかず感。そしてこう呟くのだ。『あまえ方だって中途半端 それこそ甘えかな』と。甘える事は悪い事だと躊躇してしまう。
そこでThis Is Loveは、そう、こう告げるのである。
『痛めつけなくてもこの身は
いつか滅びるものだから
甘えてなんぼ』
と。甘える事を全面的に肯定する。だから背中に抱きつく事も冷たい言葉を投げかける事も厭わない。ただ単に相手に甘えてもいいのだと思う為にこれだけのプロセスが必要だってのも面接臭い話だがなっ。
なお、この対照的な2人の主人公、勿論スターシステム的に同一人物とみていいだろう。『向かい風がチャンスだ今飛べ』も『悪い予感がするとわくわくしちゃうな』も、逆境に挑戦したがる気風は変わらないからだ。ただWINGSの時は弱気になっていただけ、This Is Loveの時はやたら強気になれていただけの違いしか、きっとなかった。うん。