無意識日記々

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お手本との距離感

MR.BIGという奇妙なバンド名の由来はQUEENと共演した事で幅広く名が知られたポール・ロジャースがかつて在籍していたグループFREEの楽曲"Mr.Big"から取られているというのはそこそこ有名な話。何でもいいけど「俺はFreeしか払わない」には笑ったぞ水曜日。それはさておき。

その"Mr.Big"をMR.BIGがカバーしているのだが、英国ブルーズ・ベースド・ハード・ロックの奥義たるFREEの楽曲だけあって、日本のMR.BIGファンには余り人気が高くない。ライブは別なんだろうけれどね。

その一番の原因はポールロジャースお馴染みの掴みどころのないヴォーカル・ラインにあるのだが、今聴き返してみると、なるほど、エリック・マーティンもそのポールのラインを完全に追い切れている訳ではないのだな。

エリックも随分な美声の実力派で知られているシンガーで、日本ではMr.Vocalist企画なんかにも参加しているが、その彼をもってしても歴代No.1ロック・シンガーであるポール・ロジャースの節回しを再現するのは苦労するようだ。本来あるべきラインが見えながらの歌唱とは、こんな風に聞こえるものなのだなと思った次第。


宇多うたアルバムで、ヒカルのヴォーカル・ラインを再現して歌おうという人はどれ位居るのだろう。今回の主眼は"ソングライター"であり、即ち、カバーするといっても歌唱より作編曲にスポットが当たっている訳で、あまりヒカルの歌を"完コピ"しようという人は居ないかもしれないが、仮にそれにチャレンジする人が居たなら、たぶんエリックがポールの歌唱をなぞろうとして苦労したように、幾ら実力派の歌い手さんであっても、相当な試行錯誤が必要になるだろう。

ある意味、世間で実力派と思って貰ってる歌い手さんに歌ってもらった方が、ヒカルの書く曲を歌うのが如何に難しいかを伝えるにはいいかもしれない。いつも最初っからヒカルの歌うヒカルの歌しか知らない訳で、これはこういうもんだろうといつの間にか思い込んでしまっているものだが、こうやってカバーされる事で、「オリジナルの宇多田ヒカルはこんなに工夫して歌っていたのか」という新鮮な驚きが提供される事になるだろう。

しかし、それにしても、歌唱にお手本があるというのも良し悪しである。追随するか無視するか、どちらの極端に走ってもいけない。その中から独自のバランスを見いだすことが、カバーを歌うにあたって「自分らしく歌う」ことに繋がるのだろうが、どうせなら13組全員に「こういう所が苦労した」というインタビューをしてみて欲しいものである。それによってまた、ヒカルの卓越した才能が見直される事になるだろうから。