無意識日記々

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「完成度」という(私の)言葉遣い

そんなに注目されてるのかという位サッカーワールドカップの記事が沢山あって目が眩む。グループリーグに関する見解は先週書いた通り。

ひとつ見た所論じられていないのはロストの期待値について、だ。西野監督の選択は、グループリーグ突破という目的に関していえば明らかにベストの選択であり、それだけならここまで賞賛される事でもない。目的遂行の為に論理的に最も確率の高い方法を選びましたね、プロとしてキッチリ仕事をしましたね、という程度。

なのだが、彼が賞賛されるべきは、ゲットの最大確率選択肢を正しく遂行した一方で、ロストをガン無視した点にある。つまり、作戦が失敗した場合に被る不利益の大きさである。それがあるから人は迷うのだ。それがないなら誰しもが最大確率の選択肢を躊躇いなく選ぶのだから。

西野監督は「失敗したらどうしよう」という迷いに惑わされなかった。そこの根性が凄い。恐らく、今回とった戦術でグループリーグ突破が成功した場合の日本サッカー界への利益と、失敗した場合の不利益(負利益)で期待値をとったら圧倒的にマイナスなのだ。つまり、利益と負利益を見込んだ期待値が最大になる選択肢を西野監督が選ぼうとしたら実際のとは違う決断になっていただろう。

ここが今回圧倒的だったのだ。何しろ、成功に終わったにもかかわらず「失敗したらどうする気だったのだ」と言う人が居た位でね。ワールドカップはサッカー人にとって本番中の本番、今中の今であって、それに参加している以上結果が出る、いや、出たプロセスこそ至高なのだ。それさえも惑わす位に失敗時に想定される負利益は大きかった。しかし、失敗はしなかった。もうそれは過ぎた事なのだ。

が、恐らくサッカー界にとっての誤算は試合時間である。このあとベルギーと日本の試合は27時から。皆寝ている。グループリーグのポーランドと日本の試合は23時から。皆結構起きていた。ただテレビを観ていた人にとってポーランド戦は「サッカーつまんね」以外の何ものでもなかった。これを決勝トーナメント一回戦で素晴らしい試合をして払拭するのが西野ジャパンのシナリオだったのだろうが、27時開始ではポーランド日本戦を観ていた大半は観ていないだろう。仮に日本が勝ったとしても、日本の2〜3000万人位の人が「サッカーはつまらないスポーツだ」という固定観念を抱いたままこのあと暮らしていくとすると、いや彼らにとっては本当にやるせないだろうね。



やるせない、という言葉を使うと桜流しを思い出してしまうのが我々のサガなのだろうけど、あの曲が6年前というのをどう距離をとってみるかが結構難しい。

というのも、『Fantome』と『初恋』を経て、少なくとも私にとって、先週触れた「完成度」という点において未だに『桜流し』がNo.1なのだ。感情喚起力という意味では次々と強力な楽曲が生まれてきているのだけれど。

「完成度」というのはちとわかりにくい概念かもしれない。つまり、出来上がったトラックについて、これ以上足しても引いても余計だなと思わせる所まで歌詞やサウンドが厳選・精錬されているかどうか、という事だ。

例えば『夕凪』は、皆さんも慣れてきただろうが、図抜けた“世界観の強さ”を持っている。私などは音が響いた瞬間に黄泉の国だか海の底だかに瞬時に引き込まれるような感覚に思えるのだが、だからといってこのトラックが「これ以上よくならない」とも思わない。最初に聴いた時の感想が「トラックも唄もこのまんまで、そこに更にビョークの声を足したら面白そうな楽曲だな」だったんだから。

ある意味、聴き手の想像力を喚起できるのもその曲の魅力なんだと言えるので、『夕凪』は素晴らしい楽曲だ、と言い切る事に全く躊躇いはない。が、完成度という観点からみれば別なんだ。もっといろんな音を足したり引いたりしたらこの曲は更によくなるかもしれない、などとついつい思ってしまうという意味で、『夕凪』は完成度の低い楽曲だ、とこのように私は表現する事にしている。

よって完成度というのは個々人にとって相対的なものである。『DISTANCE』派にとっては『FINAL DISTANCE』は改悪であり完成度の低下だろうが、『FINAL DISTANCE』派にとっては完成度の増強である。或いは、『DISTANCE』の方が好きなんだけどそれはこっちの方が瑞々しく若々しく、自由で、風通しがいいからだ、つまり完成度が低いからいいんだ、なんて言い方も出来る。『FINAL DISTANCE』は細部まで音が一意的に定まるのでどうにも風通しがよくない、完璧だから面白くない、みたいなね。なので、完成度という(私の使い方による)概念は音楽の魅力の基準ではない。ただの「突き詰めぶり」である。

ただ、であるからして、完成度が高い方が「プロっぽい」。西野監督がグループリーグ突破の可能性を吟味し突き詰め遂行した態度を「真のプロフェッショナル」と賞賛するように、突き詰められて完成度の高いサウンドはとっちらかったサウンドより、なんというかね、"商品として優れている"。アルバム『初恋』の弱点を無理矢理見いだすとすればそこ位だろうかな…。