無意識日記々

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夕凪の背景

『夕凪』の歌詞のテーマはシンプルだ。「人は死ぬ」。ただそれだけ。或いはもっと広く「命は絶える」とか「命は消える」とかでもいい。ただ、言い方に気を付けないとこの歌の言わんとしていることを見逃すかもしれない。少しばかり、注意深く行こう。

ここでは命を波に喩えそれが消えゆくさまを描いている訳だが、ただ比喩というだけではないところがある。「深い河」は現実に死体が流れてくる河であり、河の行き着く先は海である。つまり、実際に命は海の中に消えてゆく。「土に還る」のと同様に「海に還る」のだ。物理的に。

更に、ヒカル自身に纏わる“現実”もある。母の遺灰或いは遺骨を海に撒いた。散骨である。これは呟きでも触れているし、歌詞に『落とさぬように抱いた小さくなったあなたのからだ』ともある。位牌か遺灰か遺骨か、故人を偲ぶ何か或いは故人そのものを『小さくなったあなた』と表現している。普段取り立てて論うことはないけれど、この淡々とした描写のリアリティは、大袈裟に嘆かれるよりもずっと重い。

そんな時に『こんなに穏やかな時間をあなたと過ごすのは何年ぶりでしょうか』と語るのだから、生きているうちはなかなか落ち着いて相対することができなかったんだろうなという思いが込み上げてくる。まさに歌詞の通りに穏やかな語り口だが、そこにあるのは激しい後悔だ。このパートではガイドヴォーカルのように歌詞を先んじて囁いている。これをどう解釈するかだが、余りに悲しみが大き過ぎて自己防衛の為に人格を仮想的に分離しているのを描いているのではないか。つまりここでは、感情を喪った自己に対して客観を担う人格が、今何を自分が自分自身に言い聞かせるべきなのかを諭している場面なのだ、と私は読み取った。故に主人公は激しく後悔をしている、と。ただ感情の振幅が大き過ぎて茫然としているだけなのだと。


このようなイメージを基に『夕凪』を読み解いてみたい。果たしてどうなるか。自分でもわからない。