重要なのは「『First Love』の後に何も挟まず続けて歌う」ことだ。ライブ・コンサートの場合、曲を重ねれば重ねるほどヒートアップしていくのが望ましい。連続で演奏して盛り下がる位なら一旦MCを挟んでクールダウンして仕切り直した方がずっといい。それをしてこなかったということは、続けて歌う曲に『First Love』より自信があるということなのだ。
『WILD LIFE』の時の『Flavor Of Life』という選曲はまさにその自信の顕れだった。イニシャルが同じFLで同じくTBSのドラマ起用曲というだけあって『First Love』を意識するなという方が無理な『Flavor Of Life』は、しかし果たしてアルバム『First Love』の750万枚を超える800万ユニットという数字を叩き出した。アルバムとシングル、CDとユニットを較べるのは土台無理な話だが、それでも宇多田ヒカルが「『Automatic』と『First Love』の人」で終わらなかった事を示せたのは大きかった。その経緯と楽曲自体の魅力を加味すれば『Flavor Of Life』は『First Love』より盛り上がると確信できる。常に今を生きるミュージシャンとしての意地と自信がこの『First Love』と『Flavor Of Life』の流れを形作ったのだ。
では、『初恋』はどうなのか。『First Love』と同じ意味の日本語で、同じくTBSドラマの起用曲。誰しもが否応無しに比較する2曲を繋げて歌う事は『Flavor Of Life』の時以上に自信と確信がないと無理な話だ。しかも20年越しである。人々の美化が神格化に昇華するには十分な時間だ。
だが、いざ蓋を開けてみるとヒカルの“つもり”はそんなもんじゃなかった。永遠の国民的名曲、不滅のスタンダード・ナンバーである『First Love』がまるでただの前フリかと思うような凄まじい、この夜最高のパフォーマンスが繰り出されたのである。完全に『初恋』にピークが来ると予見していた。確かに、何度か思い出してもあれはGreatestな瞬間だった…。……続きはまた次回、かな?