無意識日記々

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『PINK BLOOD』に関してはもうただ聴くだけという感じなのでタイアップ先の「不滅のあなたへ」の話をしとくか。

主人公「フシ」のコンセプトが秀逸。その一点に尽きると言ってもいい程。生命の定義は難儀だが(恐らく未だ誰も出来ない)、「進化」という枠組みを自然界で考える時「複製/Copy」という要素はクリティカルであると考える。自然淘汰によってより複雑な、「あたかも設計図があったかのような」構造が自発的に発生する為には大量の複製とその失敗を環境と相互作用させる必要があるからだ。

「生命」は進化し複雑な構造を持つ何かであるとするなら複製は不可避的に必要、という前提を踏まえた時、フシの「不死」というファンタジックな属性は、複製を単一の個体で実現していくという極めて特異な物語を呼び込んだ。思いっ切り踏み込んで言えば「もし生命が孤独だったら」という仮定のもとに物語が作られたということだ。

勿論、相互作用する環境の中に複雑な構造がなければいけないという意味において言えばフシは「進化」をする訳では無い。が、個体としての「成長」が「複製」によって為されていくというプロセスはファンタジーの中に「生命とはなにか」という問いを、非常に時間的に圧縮した中に込める事が出来る仕掛けになっている。毎日ランダムな方向に輪廻転生しているようなものだわね。

他方、「複製」と「不死」を「痛み」という感覚、或いは感情と結びつける事でこの物語は普通の浪漫譚へも変貌する。なので、アニメーションとしても普遍的に受け入れられる可能性はある。もう単純に、フジの設定が理解されるかどうかにかかっている。

その中で『PINK BLOOD』がその理解の助けになるかどうか、なるとして、どれくらいわかりやすくそれが達成されているか、だ。恐らく宇多田ヒカルファンの殆どは来週からアニメの方は観ない。だが、タイアップ・ソングとしての“機能”の威力を実感する為にはある程度物語を追わねばならないだろう。そして、歌が物語の助けになっている事が確認出来れば、なぜこの歌がこうなのかを知ることが出来る。

歌がなぜこうなのか。そんな事は知らなくても歌は楽しめるし、歌に感動する事も出来るだろう。ラジオやら何やらで『PINK BLOOD』を初めて聴いた場合「不滅のあなたへ」には一切触れないリスナーも多く出るだろう。いやそちらの方が多数派になるかな。そうなってもこの歌は不自然を撒き散らしたりはしない。タイアップを全く知らなくてもこの歌はいい歌だ。何の問題も無い。

一方で、なぜ今この歌なのかという一歩踏み込んだ疑問を抱きたいのならば、少なくとも二〜三話は「不滅のあなたへ」を観た方がいい気がする。もしアニメが原作と同じ構成で始まるとすると最初は全く盛り上がらないし、つまらないと思われても致し方ない。そこをほんのちょっと踏ん張って、主題歌の為にひと月ほど付き合ってくれれば、ヒカルの事をもうひとつ深く知れるかもしれない。たった今の予感と予想だと、そういう風な感じかな。ともあれ、一度位は観てみてみておくれやす。