2021年新曲第3弾『Find Love』はオーソドックスな四つ打ちのダンスチューン…の模様。フルコーラス聴くまでは断言できないが、聞こえてくる30秒に関してはそうである。そこにUTADAらしい、ほんのりアジアンテイストなメロディが載る。典型的といえる曲調だ。
だが、ずっと宇多田ヒカル&UTADAの曲を聴いてきた耳からすると「ん?」と引っかかる部分が強い。ベースラインが太いのである。
初期からのヒカルの曲作りの特徴の一つに「スネアの切なさ」がある(最頻出フレーズだなこれ)。曲作りの発端がリズムループで、チャカポコチャカポコ打ち鳴らしている間にヒカルはそこにメロディを見出していく。普通であればまずコード進行を決めてそれに当て嵌るメロディを紡いでいくものなのだが、ヒカルはリズムパターンから(周りから見たらかなり唐突にいきなり)メロディを導き出す。
この異能とも言える曲作りの手法の帰結として、ベースラインの存在感が薄くなるというのが挙げられる。コード進行から作る場合はベースが奏でるルート音というのは非常に重要で、ある意味楽曲の骨格を成すものなのだが、ヒカルの場合は骨格をすっ飛ばして心臓の鼓動から顔面の皮膚を産むような作り方をする為、骨が蔑ろになりがちだ。
よくわかるのが『BLUE』で、この曲は『ULTRA BLUE』収録時点ではまるでデモのようなシンプルなアレンジになっていて、ヒカルらしい四つ打ちのリズムに強烈なメロディが載る典型的な宇多田節であった。そこでは、ベースラインは補助的にしか現れなかった。それが入念にアレンジされてはじめて、『WILD LIFE』で聴かれたベースが活きていてる『BLUE』が生まれたのだ。
『Find Love』ではベースラインが(アシストも含めて)非常に強い。ここから曲が生まれたのでは?と思わされるくらい。UTADAでの四つ打ちソングといえば『Dirty Desire』だが同曲と較べたらその違いはよくわかる。こちらも『BLUE』同様強いダンスビートに滑らかなメロディ、それにこの曲ならではのリズミックなリフレインという組み合わせだ。
となると、曲調は典型的なのに、実は曲作りの手法としてはヒカルの今までにないやり方が採用されているかもしれず、リスナーとしてはそこの意図や経緯に大変興味が出てくる。現時点ではそこら辺を具体的に推測することはちぃと無理だが(30秒だけだしな)、いずれインタビューなどで触れてくれたら嬉しいな。
斯様に、『Find Love』はメロディと歌詞の際立ちを強調する一方でベースラインも強い曲なので、恐らくだがこれは相当にライブを意識しているのだろうと思われる。先程触れた『BLUE』がベースラインを強化したライブアレンジで『WILD LIFE』において生まれ変わったような姿を、今度はもうアルバム収録時点から実現してしまおうということなのかもしれない。「POWER IS YOU」というキャンペーン名に相応しい、強いビートと美しいメロディに彩られた楽曲になっていうだ。そしてそれ以上に、こういう曲を書いてきたからにはライブコンサートの日程の話が具体的に出てきているのだと思われる。2018年の『Laughter In The Dark Tour 2018』以来のパフォーマンスも、あたしたちは期待するでしょそりゃ。