ここ数年のヒカルは『初恋』で『First Love』を、『誰にも言わない』で『Can You Keep A Secret?』を、それぞれタイトルでトリビュートしてきたが、今回の『BADモード』アルバムでは『キレイな人(Find Love)』に於いて、タイトルではなく歌詞のモチーフでトリビュートをしてきた。ターゲットは宇多田ヒカルのセカンド・シングル、1999年2月17日発売の『Movin' on without you』である。
この件に関してヒカルは『Liner Voice+』の日本語版でこんな風に言及している。
『(この曲『キレイな人(Find Love)』では)“シンデレラ・モチーフ”を使っていて。ファースト・アルバムに入ってる『Movin' on without you』っていう歌で昔その“シンデレラ・モチーフ”、“12時の鐘”のことを出してたので。“ガラスのハイヒール”とか。だから、それはちょっと意識してやりました。そん時15歳だったから大人になったわたしの、また、なんて言うんだ? その、同じモチーフの使い方として─っていうのを意識して聴くのもアリだったり必要じゃなかったり?(笑) 一応言っておきました。』
なんとなく触れただけ、という感じですかね。なお英語版ではこの件に関する言及はなかった。日本語歌詞の話は日本語が聞き取れる人に向けての話になる訳だからまぁそれも妥当か。
とはいえ、『意識してやりました』の言質さえとれてしまえばもうそれで十分。意識的にか無意識的にかというのはこの無意識日記の通奏テーマなのでそこは拘る。意図してこの歌詞を書いたのだヒカルは。それが知れてよかった。
で。シンデレラ・モチーフというのは、『Movin' on without you』に於いてはこの箇所のことだ。
『時計の鐘が鳴る
おとぎ話みたいに
ガラスのハイヒール
見つけてもダメ』
童話では12時に効果が切れる魔法で着飾ったシンデレラが王子から逃亡する際にガラスの靴を落としていくというエピソード。なんで12時過ぎてもガラスの靴そのまんまやねん、と幼稚園児だった私はツッコんだものだがその話はいいとして。『キレイな人(Find Love)』ではこの場面。
『王子様に見つけられたって
私は変わらない
12時の鐘に怯えなくてもいい
汚れたドレスに裸足の私も
いい感じ』
『12時の鐘に怯えなくてもいい
汚れたドレスにいつもの私で
何が悪ぃ』
なんというか、そうね、ヒカルはこれをシンデレラ・モチーフとは言っている訳だが、「シンデレラ全否定な歌詞」をそう呼んじゃっていいものですかね?
つまり、着飾った私を選ぶようなボンクラに用は無い、ってことなんだろうかね。それは言い過ぎにしても、『王子様に見つけられたって私は変わらない』は強烈だ。彼に価値を認められるのを期待している、待っているという価値観は…まぁそうね、もう“時代遅れ”というヤツになるのだろうか。そのシンデレラを全世界に知らしめたディズニー映画自体が時代に合わせてメッセージを変えてきている訳だが、はてさてヒカルは23年前と較べて…あら、これ少し尺が要るわね? 来週に持ち越すことにしときますかな。先に書いとくと、「思想としてはそんなに変わらない」が「宇多田ヒカルは成長した」というのが結論になりますかね。自明か。あははは。