無意識日記々

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「あ、ノってるな」

『キレイな人』に関する『Liner Voice +』でのヒカルのコメントは次の通り。

『えっと、ボーナストラックとして入っている「キレイな人(Find Love)」。えと~、ん、正直入れるかまよ…迷ったんですけど、まその、一部出来た歌詞、ま「日本語のバージョンも書いてみよう」ってまぁふと思って。ま、一部凄い好きな歌詞とかも出て来たので、取り敢えず完成させようと思って完成させて歌ってみたんですけど、その、どうしても、同じメロディ歌ってても全然ノリが英語に…英語の時のノリと、こう、凄く、印象が、変わって。ノリが変わっちゃうんですね、ホント。譜面に書き起こしたら同じだとしても、あの~自分でもなんか日本語で歌ってて「あれ?なんか場所が、なんかあたしズレてきてる? なんかおかしい、のかな?」って思うような時があったり違うメロディに聞こえてきたり、段々こうゲシュタルト崩壊してきて(笑)、あの~混乱したりってするくらい大分印象が違くて。でそれがいいのかどうかわからなくって、まぁ迷ったんですけど。までも出来たし、あの~ま、興味がある人がいたら、ま是非、聴いて下さい。』

…読みにくいなぁ…。でもこうやって書き起こすのが昔からの私の芸風なのでご勘弁を。

要約すると「同じメロディでも日本語と英語でノリが違う」ということだ。

では、具体的に『キレイな人』と『Find Love』のどこがどう違うのか。これを指摘するのは結構難しい。ノリって言葉にしない領域の感覚のことだからねぇ。そこに乗っかった上で何かをするものだからさ。

そんな中で以下のパートを取り上げるのが理解の一助になるのではないかなと思う。というのも、同じパートであるにも拘わらず、日本語英語それぞれで「あ、ノってるな」と思わせる部分が“別々に”あるからだ。

『Find Love』では

『For now committed to my therapy

 I train with Vicki 3 to 5 times a week

 Getting stronger isn't easy baby』、

『キレイな人』では

『もういい女のフリする必要ない

自分の幸せ 自分以外の誰にも委ねない』

のパートである。それぞれ同じく1:30から1:45の15秒間。

英語の方で「あ、ノってるな」

と思わせるのは『Getting stronger isn't easy baby』の部分。日本語では『誰にも委ねない』の箇所なのだが、同じメロディなのに英語の方がより“瞬発力”を感じさせる。特に“stronger"という単語が“str"という3連続の子音を持っているのがポイントが高い。細かく密度が濃いアタックを繰り返せる為、音を跳ね上げるイメージが日本語より強く出ている。実際、ヒカルもかなりノっているのか"stronger"の"ger"の発音が嗄れてるのだけれど、勢いが宜しかったということなんだろう、そのままこのテイクが採用されている。私もここの嗄れ声大好きなのよねぇ。うむ、子音を2つ3つ並べられるという英語ならではの特徴を活かした見事なノリの、グルーヴの生成であろう。

一方、日本語の『キレイな人』で「あ、ノってるな」と思わせるのは『する必要ない』の部分だ。1:35~1:38の約3秒間なのだが、英語ではこの部分を全く歌っていない! 日本語独自のメロディと符割とリズムになっている。

細かいことを言えば、ここは混合拍子気味になっていて、強拍が2回ズレる(『ひつよう』の『つ』と『よ』)事によって新鮮なグルーヴを生んでいる。日本語の方(『キレイな人』)にだけここのメロディと歌詞が足されているのは、歌詞の意味が通るようにという理由もあったろうが、必ず母音と子音がワンセット(単母音も含めてね)で発音される日本語の歌は、折り目正しく規則正しく音が音符に乗っている為、こうやって敢えて強拍をズラした時に余計に耳を引く効果が高い事を念頭に置いたからではないだろうか。そこまで『も・お・いい・おん・なの・ふり』まで「タン・タン・タタタン」と素直に乗せている所から『ひーつ・よーう・ないっ』と「ツータ・ツータ・タンッ」とアクセントを循環してずらすことで新しいリズムの呼び水にしている。ここの『必要ない』の歌い方がやけに気持ちいいなと感じる人は多いんじゃないかなぁ。

このように、同じパートであってもノリのピークと言える部分が別々になるような点を指してヒカルは「日本語と英語でノリが違う」と言っているのではないか、というのが今回の要点でしたとさ。まる。