でコーチェラで驚いたのが新曲だよね。持ち時間以外で後から出てきて鍵盤弾き語りで切々と歌われた曲の名は「T」。そんなん知らんやんと思ったら88risingのステージが終わった途端に88rising名義の新曲としてリリースされるというスリリングな展開。いやもうどんだけ興奮させるんですかという日曜の朝でしたね。
で、「T」って何? これは考えてもわからなそうなヤツなので考えてないんだけどねぇ。スラングだったら想像もつかないだろうしな。自分の世代だとTといえば「H jungle withT」のTだから小室哲哉のことになるけど、勿論全然関係ないぜよ。とか言いながらついつい篠原涼子 with t.komuroの「恋しさと 切なさと 心強さと」を聴いてしまった。懐かしい。これが90年代だよなぁ…。
…っとと、ついつい懐古的になってしまったのは他でもない、ヒカルが歌うその「T」が如何にも90年代後半風味なR&Bバラードだったもので。cubic Uやら『This Is The One』の頃のUTADAやらの匂いもするけれど、なんて言ったらいいかな、ヒカルがデビュー前からやってたラジオ番組『Hikki's Sweet & Sour』で掛かってそうな曲、って言ったら通じる?通じない? そういう、ヒカルがまだまだ気楽なリスナーっぽさを残してる頃の趣味が反映されてるような曲調っていえばいいかな。Mary J.BligeやGroove TheoryやMissy ElliotにAaliyahといった面々による王道な、所謂歌唱力が試される作風のR&Bね。
クレジットを見ると、ヒカルの名前もあるものの完全にOne Of Themで、作詞の一部に貢献はしたけれどという程度なんじゃないかと推察される。つまり、この曲調は、88rising側がヒカルに歌って欲しいと希望した方向性なんじゃないかなと。
それは先日述べたコーチェラへのお誘いの理由と合致する。ヒカルは、アジア系のR&Bにもしっかりとしたルーツがあって、ポッと出の浮ついたものではないんですよということを最古参の(ってことになるのよなぁ)レジェンドとして表現することを期待された訳で。実際ヒカルが日本でデビューした時も、マライア・キャリーなんかと較べてもひけをとらない的な言われ方をしてたからね。詳細は知らないが、当時のアジア諸国でも似たような印象を与えていたのではなかろうか。それを2022年の今再現して欲しかったと。
ヒカルはその意図を総て汲み上げたかのような絶品の歌唱を聴かせてくれている。こういう素直な符割りと突拍子無くないメロディ運びの時のヒカルはホント巧いなぁ。普段自分の奇天烈な作曲で自分の歌唱力を抑え込んでいるのとはえらい違いだわ。
こういうノスタルジックな要望にもちゃんと応えてしまうところが、優しいというか、何より、音楽職人だなぁと感心してしまう。感覚としてはカバーに近いものがあるが、暫くはこの歌唱の素晴らしさを堪能させてうただくことと致しましょう。いやほんまにうまいわ…。気楽に歌ってるのを聴くのも、たまにはいいもんだねぇ…。